ベトナム、女性人権活動家の国旗侮辱罪を初公判で結審 2年9か月実刑判決は司法の茶番と批判
育児と妊娠から服役猶予に
ベトナムでは乳児を持つ母親はその乳児が3歳になるまで収監を猶予する規定がある。ヴィーさんには2歳の娘がいることから、判決が確定後も約1年の収監猶予が与えられる。
さらに初公判では弁護士が医師の画像を提示してヴィーさんが現在妊娠中であることも明らかにした。このため最長でこの現在妊娠中の2人目の子供が3歳に達するまでヴィーさんは刑務所での服役を猶予されることになるという。
支援団体などによると、猶予期間が終了すれば原則として判決の期間は服役しなければならないことになっているという。
ヴィーさんは2018年8月9日にブオンホーの自宅で突然地元警察に身柄を拘束され、家宅捜索を受けた。しかしその後、2歳の子供がいることなどから自宅軟禁措置に変更され、警察官が自宅周辺で外出できないように監視する中、自宅で夫、子供と過ごしていたという。この時期に妊娠したもので、裁判では「現在妊娠1カ月半」であることが明らかにされた。
一方で、検察側も8月の身柄拘束時にはヴィーさんの容疑を明らかにしないまま拘束しており、ソーシャルネットワークなどを通じて内外にベトナムの人権状況を発信し続けてきたヴィーさんを「口封じ」するための身柄拘束とみられていた。
そのため拘束後に裁判に向けて警察、検察、共産党当局がヴィーさんを裁判にかける「容疑探し」を行った結果、苦肉の策として見つけたのが「国旗侮辱罪」だったと、支援団体や弁護側はみている。
このため初公判で即日結審することはもちろん、判決言い渡しの手順、禁固刑の実刑判決、収監猶予などは裁判開始前にすでに決まっていたとされ、それが「裁判は茶番劇」と被告側が批判する根拠となっている。
内外で影響力が大きかったヴィーさんの人権活動が「目障り」だったベトナム当局にしてみれば、有罪判決で当面自宅軟禁にすることで、彼女が創設にも関わったNPO組織「ベトナム女性の人権保護(VNWHR)」などの活動を阻止する法的根拠ができたことになり、とりあえずは目標を達成したことになる。
ヴィーさんは「今回の裁判を通じてベトナムの司法の現状、そして人権侵害の実情が国際社会にも伝わる」との期待を知人を通じて表明し、今後も何らかの形で人権状況に関する発信を続けていきたい、と決意を新たにしている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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