華為Huaweiを米国に売ったのはZTEか?──中国ハイテク「30年内紛」
経営者が誰であろうと、華為の株の98.7%は従業員が持っている。だから若者はこの会社で働こうと意欲を燃やす。経営者側には1.3%の利益しか入らないので、経営者が誰であるかは大きな問題ではなく、しかも会長は輪番制だ。
このような企業を放置する習近平は、きっと苦境に追い込まれているにちがいない。
ここで強制的にハイシリコンの半導体を外販させたりすれば、ハイシリコンは一気に成長を止めるにちがいない。それは困る。なんと言ってもハイシリコンは中国では他社を圧倒的に引き離してトップを走り続けているのだから、「中国製造2025」の実現を遅らせてしまう。
ある意味、改革開放により市場経済を進める一党支配体制の限界が、こんな所に現れていると言えるかもしれない。
もし華為が追い詰められて経営に影響を及ぼすところに至れば、おそらく華為は経営危機に陥っているZTEを買収して、中国政府にも同業他社にもハイシリコンの半導体を販売する手段に出るかもしれない。そうなると「中国製造2025」は一気に実現する。
12月11日のコラム「習近平の狙いは月面軍事基地――世界で初めて月の裏側」で書いたように、中国は宇宙空間においても既にアメリカの先を行こうとしている。言論弾圧をしている国が世界を制覇していいのか?
そのときに、中国政府と一定の距離を置いてきた民営企業、華為とハイシリコンに、若者はこれまで通りの熱狂的な応援をし続けるだろうか。われわれは、現在の中国に唯一残されている新しい民主化の萌芽さえ、摘み取ってしまうことになるだろう。
言論弾圧をする、あの中国共産党の一党支配の限界が内在して、せっかく新しい芽を吹きだそうとしている僅かな可能性まで摘み取ることになるのではないかと、そのことを懸念する。
革命戦争のときに毛沢東の長春食糧封鎖の犠牲となり、餓死体の上で野宿しながらも生き残ってきた者として、その記録を発表することが犯罪であるとされて、筆者は中国の言論弾圧と生涯をかけて闘ってきた。だから民主化の萌芽が少しでもあれば、それを応援したい。しかし今、それも消えようとしている。
真実を直視し、そこから予測される未来の可能性と危機を読み取る賢明さを、日本人が持ち得ると信じたい。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。