愛と死のおとぎ話『ア・ゴースト・ストーリー』
A Philosophical Fairy Tale
幽霊の衣装はシーツに2つののぞき穴を開けたもの (c) 2017 SCARED SHEETLESS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
<せりふがほとんどない哲学的なおとぎ話......宇宙的なスケールで生きることの意味を問い掛ける>
デービッド・ロウリー監督の『ア・ゴースト・ストーリー』を見終わって帰る道すがら、仲間の批評家がこう言った。「この映画については『見に行ってくれ』と言うしかない。それが最上の批評だと思う」
彼の言いたいことはよく分かる。上映時間1時間32分のこの幽霊映画は実にシンプル。惜しみない称賛よりも必要最小限の紹介のほうが似つかわしい。
筋書きは一文で語れる。死んだ男が幽霊になって自分の家に戻り、愛する女性を見守り、彼女が去った後もその痕跡を求め続ける。たったそれだけなのに、短い上映時間に悠久の時が流れ、魂の奥深くまで降りてゆくような不思議な感覚を味わう。
映画の始めのほうと終わり近くで2度、満天の星が輝く夜空が映し出される。その間に挟まれたのは宇宙的なスケールの探究の物語だと言うように......。
これはホラー映画ではない。哲学的なおとぎ話だ。心臓が飛び出すような恐怖シーンやじわじわ怖くなるサスペンスを期待して見たらがっかりする。
タイトルロールの幽霊を演じるのはケイシー・アフレック。この役には名前さえなく、クレジットではCと表記されるだけだ。アフレックが姿を見せる場面はほんのわずかで、ほぼ終始シーツをかぶっている。人を脅かすといったお化けっぽいことはせず、ただそこに立っているだけ。時が流れるにつれて、「そこ」の持つ意味が、そしてその空間と彼の関係が変容し、深まっていく。
シーツお化けの名演技
映画が始まって10分ほどでCは死ぬが、生前の彼は愛する女性M(ルーニー・マーラ)と最近越したばかりの古い平屋に暮らしていた。ごく手短にこのカップルを紹介する場面から、2つの重要な情報が得られる。2人が深く愛し合っていること。
でも入居した家への思いは違うこと。彼は床板がきしむような家と、元の家主が残して行ったピアノが気に入っているが、彼女はもっと都会的な家に住みたがっていて、調律の狂ったピアノも処分したいと思っている。
だが家のことで口論しても、CとMが愛し合い、共に人生を送ろうとしていることは明白だ。それゆえ一層、自動車事故でのCの突然の死は衝撃的だ。
次の場面(ほとんどせりふはない)で、Mは病院で身元確認のためにCの遺体と向き合う。Mたちが出ていった後もカメラはその場にとどまり、シーツを掛けられたCを見守る。と突然、シーツの下の男が身を起こす。この場面も単純にびっくりするだけで、さほど怖くない。男は立ち上がり、シーツの裾を引きずって家に向かう。