最新記事

アメリカ政治

女性蔑視のトランプを支える「トランプの女たち」のナゾ

THE TRUMP-BRANDED WOMAN

2018年11月27日(火)17時00分
ニーナ・バーリー(ジャーナリスト)

メラニア・トランプ(旧姓ナウス)

「いい契約を取ってやった」。02年5月、トランプはラジオ番組で豪語した。契約とは、新しい恋人メラニア・ナウスをタバコの「キャメル」の広告塔に据えたこと。タイムズスクエアにメラニアの巨大な広告が出現した。

当時のメラニアは28歳。モデルとしてはピークを過ぎ、何らかの後ろ盾を必要としていた。

ユーゴスラビア(現スロベニア)出身のメラニアがモデル業界に入ったのは、東欧女性の人身売買が国際的に問題となり、広く報道されていた頃だった。彼女が苗字のつづりをドイツ風に変え、一時期、オーストリア生まれだと主張したのはそのせいかもしれない。だが強いスロベニアなまりの英語を話すメラニアは、人身売買の犠牲となる女性のイメージから今も逃れられない。

昨年、フィンランドの小説家・劇作家のソフィ・オクサネンは公開書簡で、女を蔑視する夫の言動を表立って批判しないメラニアを非難した。「あなたはファーストレディーだが、テレビであなたに似たアクセントを聞くたび、画面に映るのは娼婦かストリッパーかメールオーダー花嫁だ」とオクサネンは書いた。「あなたの屈辱的な結婚が記事になるたび、男たちは買春目当てで東欧に押し寄せ、東欧女性とのデートアプリに群がる。あなたの沈黙はあなた1人の問題ではない。無数の女たちの人生を左右するのだ」

トランプがメラニアに引かれた理由は一目瞭然。24歳年下の無口な美女は、衰えかけたトランプ・ブランドへのカンフル剤だ。だが少なくとも最初のうち、交際から大きな恩恵を受けていたのはメラニアだった。トランプと付き合う前のメラニアは、セレブに憧れるその他大勢の1人でしかなかった。

2人は05年1月、フロリダにある金ピカの別荘マールアラーゴで挙式。披露宴にはビルとヒラリーのクリントン夫妻も出席した。息子バロンの出産は06年3月だった。

結婚後の彼女はイバナ、イバンカと同じようにトランプ印の小売業に進出し、化粧品やジュエリーを扱うメラニア・マークス・アクセサリーズのCEOに就任。16年夏にはドゥジュール誌が「テレビショッピングの番組で紹介されたメラニアのジュエリーは45分で完売した」と書いた。

メラニアは注目を浴びるのが苦手だ。彼女を発掘した母国の写真家スタネ・イエルコによれば、若い頃からその性格は変わらない。大統領夫人として世界に注視されるメラニアが、いつもぴりぴりして見えるのも当然だ。

夫とポルノ女優の不倫騒動が泥沼化し、悲しい顔をした自分の写真がネットに出回り、メディアに一挙手一投足を分析される日々はさぞかし地獄だろう。10月、ケニアを訪問中のメラニアはABCのニュース番組で「(私は)世界で一番いじめられている人間」だと愚痴った。

「みんな心配している」と、ある友人は語る。大統領夫人になって最初の1年、メラニアは夫の所有するニューヨークやフロリダの家とホワイトハウスを転々とし、今年の5~6月には24日間も雲隠れした。メキシコとの国境に何度も(少なくとも1度はホワイトハウスに無断で)足を運び、10月には1人でアフリカ4カ国を歴訪した。

覚悟も素養もないままアメリカ大統領夫人の大役を任されたメラニアだが、皮肉なもので、今のところは彼女が誰よりも「トランプ離れ」に成功しているようだ。

(本稿は『黄金の手錠』からの抜粋)

<本誌2018年11月27日号掲載>


※11月27日号(11月20日発売)は「東京五輪を襲う中国ダークウェブ」特集。無防備な日本を狙う中国のサイバー攻撃が、ネットの奥深くで既に始まっている。彼らの「五輪ハッキング計画」の狙いから、中国政府のサイバー戦術の変化、ロシアのサイバー犯罪ビジネスまで、日本に忍び寄る危機をレポート。

20250114issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月14日号(1月7日発売)は「中国の宇宙軍拡」特集。軍事・民間で宇宙支配を狙う習近平政権。その静かな第一歩が南米チリから始まった

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB利下げ継続、即時実施は不要 指標注視=フィラ

ワールド

ロシア、北極圏の国益強調 グリーンランドなど巡るト

ビジネス

米利下げ、段階的で忍耐強いアプローチ必要 不透明感

ビジネス

英ポンド急落、国債利回り16年ぶり高水準 財政不安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国の宇宙軍拡
特集:中国の宇宙軍拡
2025年1月14日号(1/ 7発売)

軍事・民間で宇宙覇権を狙う習近平政権。その静かな第一歩が南米チリから始まった

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分からなくなったペットの姿にネット爆笑【2024年の衝撃記事 5選】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」
  • 3
    装甲車がロシア兵を轢く決定的瞬間...戦場での衝撃映像に「弾薬が尽きていた」とウクライナ軍
  • 4
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 5
    仮想通貨が「人類の繁栄と自由のカギ」だというペテ…
  • 6
    「ポケモンGO」は中国のスパイ? CIAの道具?...大人…
  • 7
    いち早く動いたソフトバンク...国内から「富の流出」…
  • 8
    トランプさん、グリーンランドは地図ほど大きくない…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    大河ドラマ『べらぼう』が10倍面白くなる基礎知識! …
  • 1
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵の遺族を待つ運命とは? 手当を受け取るには「秘密保持」が絶対
  • 2
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流行の懸念
  • 3
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分からなくなったペットの姿にネット爆笑【2024年の衝撃記事 5選】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    ザポリージャ州の「ロシア軍司令部」にHIMARS攻撃...…
  • 7
    「日本製鉄のUSスチール買収は脱炭素に逆行」買収阻…
  • 8
    青学大・原監督と予選落ち大学の選手たちが見せた奇跡…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    仮想通貨が「人類の繁栄と自由のカギ」だというペテ…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 3
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 4
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 7
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 8
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 9
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 10
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中