女性蔑視のトランプを支える「トランプの女たち」のナゾ
THE TRUMP-BRANDED WOMAN
イバンカ・トランプ
あなたもきっとああいう写真を見たことがあるだろう。ない? それなら「creepy pictures of Trump and Ivanka」(トランプとイバンカのキモい写真)で検索してみるといい。
トランプ嫌いの人は、彼の手が何かに触れているのを想像しただけでぞっとする。ホワイトハウスのドアノブでも、ミス・ティーンUSAの王冠でも、娘のイバンカでも。思春期のイバンカがパパといっしょにイタリア製スポーツカーに乗り込む写真や、パパの膝に座った写真などを見ると、いろいろ余計なことを考えてしまう。
ピグマリオンの伝説は、彫刻家が完璧な女性を作り出そうとして、自らの作品に恋してしまう物語だった。トランプも娘のイバンカを自分の最高の作品と思い込んでいる。公の場で、イバンカは父を「私の父(マイ・ファーザー)」と言い、孝行娘らしい態度を取る。私的な場では「ダディー」と呼ぶが、トランプはそう呼ばれるのがうれしいようだ。
イバンカの子供時代も楽ではなかった。ほんの9歳のときに路上で記者たちから、「お父さんはベッドの上では上手?」と質問されたことがある。そんな経験をしたら、二度と立ち直れないか、うまい言い返し方を身に付けるか、どちらかしかないだろう。
13年のインタビュー番組で、父と娘に共通している点は何かと質問されると、トランプは「セックス」と答え、思わせぶりにちょっと沈黙した後、「いや、ゴルフと不動産だ」と言った。スタジオ内の観衆は不快の声を上げたが、イバンカは髪の毛をかき上げて忍び笑いをすると「まあ、悪い子ね」とでもいうように、母性愛に満ちたまなざしを父親に投げ掛けた。
彼女は11年に「イバンカ・トランプ」ブランドを立ち上げた。夫ジャレッド・クシュナーとの間に3人の子を儲け、ワーキング・マザーのイメージを売り込む。しかしアメリカのフェミニストたちは、彼女のことをベルサイユ宮殿に偽の農家を建てさせ、乳しぼりの娘の服装で田舎気分を楽しんだ王妃マリー・アントワネットのようだと思っている。
トランプが大統領に就任して、マスコミが一家のビジネスについて調査を始めると、イバンカがニューヨークからパナマに至る各地の怪しげなビジネスマンと取引している事実が明るみに出た。洗練されたイバンカの存在は、それまで父親の怪しい経歴を覆い隠してくれていた。
彼女が自ら現金の詰まった袋を受け取ることはない。きれいにマニキュアした彼女の手はいつだってクリーンだ。14年にアゼルバイジャンの悪名高いママドフ財閥とホテルのライセンス契約を結んだときは、ホテルが完成して「イバンカ」ブランドのスパに行くのが待ち切れない、「とても大きなスパなの」と話していた。
イバンカは大統領補佐官としてホワイトハウス入りした。彼女の立場はキャロライン・ケネディやチェルシー・クリントンといった歴代米大統領の娘たちよりもむしろ、アンゴラのイザベル・ドスサントスやアゼルバイジャンのレイラ・アリエバといった途上国の政治家の娘に似ている。「アゼルバイジャンのアリエフ家と同様、トランプ家もいずれビジネスの世界に戻る。民主主義にはふさわしくない」と、ビジネス倫理分析機関TRACEインターナショナルの創立者アレクサンドラ・ラゲは言う。