最新記事

アメリカ政治

女性蔑視のトランプを支える「トランプの女たち」のナゾ

THE TRUMP-BRANDED WOMAN

2018年11月27日(火)17時00分
ニーナ・バーリー(ジャーナリスト)

イバナ・ツェルニチコバ

チェコスロバキア(当時)生まれのイバナがニューヨークにやって来たのは1976年。その頃アメリカのテレビで盛んに流れていた香水のCMでは、会社で懸命に働いた女性が退社時に香水を一吹きし、晴れやかな顔で帰宅する姿が描かれていた。

80年代に入ると仕事を持つ女性は珍しくなくなったが、男と同じように働くことを求められた。トランプは性差別者だが女性の社会進出を拒まず、巧みに利用した。彼は女性を雇った。当時としては珍しいことだが、トランプ・タワーの建設に女性エンジニアを起用している。

トランプと最初の妻イバナは77年に結婚。2人の派手なライフスタイルやイバナの派手で大きなヘアスタイルはメディアで盛んに報じられた。イバナはキャリアを築こうとし、トランプ・タワーをはじめとする夫の主要な建物のインテリアデザインを手掛けた。88年にはニューヨーク・ポスト紙が、イバナは「あの男の後ろではなく、横にいる女性だ」と書いた。

本人はこの虚像を信じたかったのだろう。「妻が働きもせず、何の寄与もしなかったら、ドナルドは遠からず彼女の元を去るはず」だと、タイム誌に語っている。しかし現実のイバナは仕事と家庭生活をこなすのに必死で、燃え尽きる寸前だった。

trumpwomen02.jpg

トランプとの間に3人の子を儲け、カジノやホテルの経営を任されたイバナは離婚後も実業家として成功 Ron Galella-Wireimage/GETTY IMAGES

イバナは夫と対等な関係になれると考えていた。「イバナはトロフィーワイフ(見せびらかすための美人妻)ではなかった。(トランプ)帝国を築き上げたパートナーだった」と、彼女の友人は言う。しかし夫は、そうは思っていなかった。妻を励ましたが、見下してもいた。「妻に払う給料は年に1ドルだが、ドレスは好きなだけ買ってやる」。88年にイバナをプラザ・ホテルの社長に就けた際、トランプはジョークのつもりでそう言っている。

夫婦でオプラ・ウィンフリー・ショーに出演したときは「意見の相違はそれほどない。イバナは最終的に私の言うことを聞くから」と言った。イバナは「男性優位主義者ね」と夫をからかい、観客と一緒になって笑った。

しかし内心では笑っていなかった。ある日、女性エンジニアのバーバラ・レスがイバナに、トランプとはやっていけないと訴えたときのこと。驚くことにイバナは泣き出した。「私の気持ち、あなたには分からないでしょうけど、私は24時間、彼と一緒にいなければいけないのよ」。イバナはそう言ったと、レスは言う。「それで彼女がとても気の毒になった」

イバナはトランプがマーラ・メイプルズと浮気しているのを知って、90年に離婚の申し立てをした。泥沼の法廷闘争を経て、92年に離婚が成立。イバナは1400万ドルの現金、コネティカット州にある45室の豪邸、トランプ・タワーのアパート(ここで子供3人を育てた)、年間65万ドル以上の養育費と生活費を手に入れた。

イバナは働く女性だが、フェミニズムの旗手ではなかった。トランプの女性版だった。共産圏で育ったイバナは貪欲な実業家に変身し、トランプとの離婚後は小説や自己啓発本を書く傍ら、衣料品やジュエリー、化粧品などの事業を手掛けた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:アフリカのコロナ犠牲者17万人超、予想を

ワールド

米上院、つなぎ予算案可決 政府機関閉鎖ぎりぎりで回

ワールド

プーチン氏「クルスク州のウクライナ兵の命を保証」、

ビジネス

米国株式市場=急反発、割安銘柄に買い 今週は関税政
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 2
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴された陸上選手「私の苦痛にも配慮すべき」
  • 3
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 4
    中国中部で5000年前の「初期の君主」の墓を発見...先…
  • 5
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ…
  • 6
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「天然ガス」の産出量が多い国は…
  • 8
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 9
    「紀元60年頃の夫婦の暮らし」すらありありと...最新…
  • 10
    エジプト最古のピラミッド建設に「エレベーター」が…
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 5
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 6
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 7
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 8
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 9
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 10
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中