トランプを追い込む疑惑のサウジ皇太子
Bad Bet
10月下旬にCNNの公開討論番組に出演したクシュナーも、事件に関するサウジ側の説明が二転三転していることを問われると、こうかわした。「見掛けでは分からないことがある。中東でもワシントンでもそうだ。今回の件も、偏見を持たずに見なければならない」
そうは言っても、かつてアメリカの期待の星だった皇太子が一転して障害物となりかけている事実は否定できない。イランを孤立させ、パレスチナ和平で「世紀の取引」を実現する、そのためにアラブの盟主たるサウジアラビアを取り込むというトランプの筋書きは破綻寸前だ。
もちろんアメリカは長年にわたり、サウジアラビアを中東における戦略的パートナーと見なしてきた。だからこそサウジの超保守的な宗教がもたらす好ましくない症状(9.11同時多発テロの実行犯の多くがサウジ国籍だったことなど)には目をつぶって同盟関係を維持する一方、武器や石油の取引では大いに稼がせてもらってきた。
もちろんアメリカは他の湾岸諸国とも良好な関係にある。しかし中東問題研究所のトーマス・リップマンに言わせれば、そうした諸国は「経済的にも軍事的にもサウジアラビアにかなわない」し、アメリカの兵器購入や石油市場への影響という点でも比較にならない。ブルッキングズ研究所の中東専門家ブルース・ライデルも「(サウジに代わる)選択肢はない」と言う。
リップマンによれば、アメリカの中東戦略には地域の安定促進、イランとの対決、石油の安定供給、イスラエルの保護、投資機会の創出、テロ組織との戦いといった要素が含まれる。サウジは少なくとも名目上、こうした目標に貢献している。
だが皇太子のダークな一面が明らかになった今、アメリカ政府も「サウジを頼りにできない同盟国、不利益をもたらす存在と考える可能性がある」と、ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院のカミーユ・ペキャスタンは指摘する。
ちなみに「それはサウジアラビアを格下げし、イランへの関与を選んだオバマ政権の立場だった」と彼は言い、こう続けた。「トランプ政権はイランと対決し、サウジを支持する姿勢に戻った。無謀な行動をしないようにサウジを導くこともできたはずなのに」
昨年11月、ムハンマド皇太子は反腐敗運動の一環と称して政府高官や王族数十人を一斉検挙した。この行動は改革者としての皇太子の名声に傷を付けた。そしてカショギ殺害事件でイメージはさらに悪化した。
「今は次々に間違いを犯しながらも国内外の支持を取り付けているが、いつまでも続くとは思えない」とリップマンは言う。皇太子は自分の国際的なイメージを汚しただけではない。彼を持ち上げた人々(例えばクシュナー)の顔にも泥を塗った。
トランプは大統領に就任してから、今もサウジアラビアに大使を送っていない。その代役がクシュナーで、皇太子と同じ30代の彼は親密な関係を築き、それを最大限に利用している。しかしクシュナーが音頭を取った中東和平構想は矛盾だらけのお粗末なもので、完全に行き詰まっている。
不動産屋親子を待つ失敗
クシュナーはかつて、イスラエル人によるパレスチナ自治区への違法な入植に資金を提供する団体の運営に関わっていた。そんな彼に、義父はパレスチナ和平の任を託した。