「スマホの電磁波で癌になる」は本当か
DO CELL PHONESCAUSE CANCER?
先行する複数の疫学研究では、携帯電話を頻繁に使っているとシュワン細胞に珍しい種類の脳腫瘍が発生する確率が高くなるとの結果が出ている。また、3月にラマツィーニ研究所(イタリア)が学術誌「環境研究」で発表した研究でも、驚くほどNTPの実験と似た結果が出ている。この研究では2448匹のラットに1日に19時間、生まれてから死ぬまで継続して電磁波の照射を行った。すると、最も強い電磁波を浴びた雄のラットで心臓のシュワン細胞に腫瘍が発生する確率が有意に高くなったという。
大学や医薬品メーカーなどの専門家から成る委員会はNTPとラマツィーニ研究所の実験結果を検討し、雄のラットについて「発癌的活動のはっきりした証拠」が示されたとの結論を3月に出した。アメリカ癌協会のオーティス・ブローリー医務部長は「大きな変化をもたらす研究だ」と述べている。
NTPの研究は今年初めに中間報告という形で発表され、大きな反響を呼んだ。だがブローリーが本誌に語ったように、「まだ分かっていない重要な点がいくつか残っている」。例えば雌より雄のラットのほうが悪性腫瘍を発症しやすいのはなぜか。全体的に見ると照射を受けたラットのほうが長生きなのはなぜか。何より、もし携帯電話による電磁波が癌を引き起こすとしたら、そのメカニズムは何なのか。
人々を電磁波の害から守るためにどんな規制を設けるべきかはまだ分からないと、ブッカーは言う。携帯電話の電磁波が何らかのメカニズムで癌を引き起こすことは彼も疑っていないが、そのメカニズムを突き止めない限り、携帯電話をどう設計すべきかアドバイスすることは不可能だからだ。来年までに手掛かりを見つけるべく、彼はさらなる研究を続けている。
既に規制強化を行った国も
南カリフォルニア大学(USC)医学大学院のガブリエル・ザダ准教授は、正常だが影響を受けやすい細胞を、携帯電話の電磁波が癌細胞に変えてしまうメカニズムを突き止めるための実験方法を模索している。例えば外からの電磁波を遮断した箱に、作動中のスマートフォンとヒトの脳腫瘍の細胞を入れたガラス瓶を置くといったやり方で、細胞の種類別に電磁波の影響を比較検証しようというのだ。
NTPの照射実験の最終結果および新たな安全性に関する勧告はこの秋に出される予定だ。
米政府監査院(GAO)は12年の議会への報告で、携帯電話の使われ方の変化や最新の研究結果、WHOの勧奨などを受けて、携帯電話からの電磁波を浴びる量の基準や、試験を行う際のルールの見直しを求めた。そこでFCCは電磁波の基準見直しの必要性について調査やパブリックコメントの募集を公式に開始。16年までに900件のコメントが集まったというが、現在まで何の対応も取られていない。