最新記事

中国

背景には「中国製造2025」──習近平による人民の対日感情コントロール

2018年10月23日(火)12時10分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

中国の習近平国家主席 Nicolas Asfouri/REUTERS

習近平政権になってから反日デモが起きていない。その背景には2012年秋の反日デモでの「日本製品不買運動」と「中国製造2025」がある。今年、中国人の対日感情が改善された背景には反米感情の裏返しがある。 

反日デモが指摘した「メイド・イン・チャイナ」か「メイド・イン・ジャパン」か

これまで何度も書いてきたように、中国は2015年5月に「中国製造(メイド・イン・チャイナ)2025」という国家戦略を発布し、2025年までにハイテク製品のキー・パーツ(コアとなる構成部品、主として半導体)の70%を「メイド・イン・チャイナ」にして自給自足すると宣言した。同時に有人宇宙飛行や月面探査プロジェクトなどを推進し完成に近づけることも盛り込まれている。

実は習近平国家主席が「中国製造2025」戦略を打ち出すきっかけになったのは、2012年9月の尖閣諸島国有化で起きた反日デモだということを知っている日本人は多くないだろう。

激しい反日デモの中で若者たちは「日本製品不買運動」を呼びかけて、日系企業の工場や日系自動車会社の販売店などを徹底的に破壊した後に放火しただけでなく、日系スーパーやコンビニは暴力的な略奪行為にさらされ、中国人が経営する日本料理店や走行中の車も、それが日本車で運転手が中国人であっても身動きが取れないほどの大衆に囲まれて暴行を受け、被害が拡大した。

呼びかける道具として使ったのは携帯やパソコンだ。

そんな中、1人のネットユーザーが疑問を投げかけた。

「この携帯もパソコンも、表面には確かにメイド・イン・チャイナと書いてあるけど、中身はほとんどがメイド・イン・ジャパンじゃないか!これも不買対象の日本製品に当たるのではないか?」

この疑問はまたたく間にネットに広がり、デモ参加者の不満の矛先は、「キー・パーツという半導体を生産する能力も持っていない中国政府」へと向かっていったのである。

もちろんキー・パーツにはアメリカ製や韓国製などもあったのだが、何しろ「日本製品」の不買運動を叫んで大暴れしていたわけだから、自ずと「にっくき日本」に目が向けられた。この時点で中国のハイテク製品キーパーツの90%は輸入に頼っていた。

反日デモを抑え込んだ習近平政権

反日デモ自身は、胡錦濤政権によって鎮圧された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インフレ率低下、持続可能かの判断は時期尚早=ジェフ

ワールド

ウクライナ、北東部国境の町の6割を死守 激しい市街

ビジネス

インフレ指標に失望、当面引き締め政策が必要=バーF

ビジネス

物価目標達成に向けた確信「時間かかる」=米アトラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『悪は存在しない』のあの20分間

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 5

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 6

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中