背景には「中国製造2025」──習近平による人民の対日感情コントロール
なんと言ってもその年11月からは中国にとって最も神聖な党大会が始まることになっていた。党大会までにデモを鎮圧しなければ、一党支配体制の維持が脅かされる。5年に一回の党大会が開催される前は、天安門広場は猫の子一匹通さないほどの厳しい警戒体制に入る。
だというのに、反日デモは日中国交正常化以来の激しい勢いだった。おまけに「反政府」に向かいつつあった。だから胡錦濤は強引に反日デモを鎮圧させて、習近平に中国共産党中央委員会総書記の座を譲り渡す党大会に備えたのである。
2012年11月8日から開催された第18回党大会で中共中央総書記に選ばれた習近平は、中国人民、特に若者への監視体制を徹底させ、反日デモが起きないようにネット言論を厳しく抑え込み始めた。
反日デモが起きれば、必ず日本製品不買運動が起き、そして「ハイテク製品はメイド・イン・チャイナなのか、それともメイド・イン・ジャパンなのか」という議論が再び持ち上がるからだ。
事実、2012年12月4日、中国共産主義青年団(共青団)の中央機関紙である「中国青年報」は、「キー・パーツがなかったら、ハイテク全体を突き動かすことができない」というタイトルの長い論評を掲載した。そこには「反日デモ」と「メイド・イン・チャイナか、それともメイド・イン・ジャパンなのか」との関連が深く掘り下げられていた。
2013年年初から始まった「中国製造2025」への戦略
そこで習近平は2013年が明けるとすぐに、中国アカデミーの一つである中国工程院などに命じて「製造強国戦略研究」という重大諮問プロジェクトを立ち上がらせた。
2014年に答申があり、それに基づいて2015年5月に「中国製造2025」が発布されたわけだ。
それと同時に習近平政権は「中華民族の偉大なる復興」を目指す「中国の夢」を実現することを政権スローガンとしている。
つまり習近平にとっては、中華民族の命運を賭けてでも「中国製造2025」を実現させなければならないのである。だから2022年には国家主席を引退しなければならないように規定されている憲法を改正し、少なくとも2025年までは国家主席を務めて、「中国製造2025」を完成させる決意でいる。
そのための対日感情のコントロール
反日デモを抑え込めば反政府感情を刺激する。だから習近平自身が「強烈な反日であるとする姿勢」を、中国人民、特にデモに走る可能性のある若者たちに見せつけなければならない。