最新記事

中国

背景には「中国製造2025」──習近平による人民の対日感情コントロール

2018年10月23日(火)12時10分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

なんと言ってもその年11月からは中国にとって最も神聖な党大会が始まることになっていた。党大会までにデモを鎮圧しなければ、一党支配体制の維持が脅かされる。5年に一回の党大会が開催される前は、天安門広場は猫の子一匹通さないほどの厳しい警戒体制に入る。

だというのに、反日デモは日中国交正常化以来の激しい勢いだった。おまけに「反政府」に向かいつつあった。だから胡錦濤は強引に反日デモを鎮圧させて、習近平に中国共産党中央委員会総書記の座を譲り渡す党大会に備えたのである。

2012年11月8日から開催された第18回党大会で中共中央総書記に選ばれた習近平は、中国人民、特に若者への監視体制を徹底させ、反日デモが起きないようにネット言論を厳しく抑え込み始めた。

反日デモが起きれば、必ず日本製品不買運動が起き、そして「ハイテク製品はメイド・イン・チャイナなのか、それともメイド・イン・ジャパンなのか」という議論が再び持ち上がるからだ。

事実、2012年12月4日、中国共産主義青年団(共青団)の中央機関紙である「中国青年報」は、「キー・パーツがなかったら、ハイテク全体を突き動かすことができない」というタイトルの長い論評を掲載した。そこには「反日デモ」と「メイド・イン・チャイナか、それともメイド・イン・ジャパンなのか」との関連が深く掘り下げられていた。

2013年年初から始まった「中国製造2025」への戦略

そこで習近平は2013年が明けるとすぐに、中国アカデミーの一つである中国工程院などに命じて「製造強国戦略研究」という重大諮問プロジェクトを立ち上がらせた。

2014年に答申があり、それに基づいて2015年5月に「中国製造2025」が発布されたわけだ。

それと同時に習近平政権は「中華民族の偉大なる復興」を目指す「中国の夢」を実現することを政権スローガンとしている。

つまり習近平にとっては、中華民族の命運を賭けてでも「中国製造2025」を実現させなければならないのである。だから2022年には国家主席を引退しなければならないように規定されている憲法を改正し、少なくとも2025年までは国家主席を務めて、「中国製造2025」を完成させる決意でいる。

そのための対日感情のコントロール

反日デモを抑え込めば反政府感情を刺激する。だから習近平自身が「強烈な反日であるとする姿勢」を、中国人民、特にデモに走る可能性のある若者たちに見せつけなければならない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中