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温暖化を加速させるホットハウス現象アオコの異常発生で水道水が汚染される
Don’t Drink the Pond Scum
湖沼の水温上昇でアオコの発生が頻発。藻類の毒が水道水に混入する恐れがある HeikeKampe/iStock.
<今年オレゴン州ではじめて水道水から毒素を検出>
オレゴン州の湖で釣りやカヤックを楽しむ人たちは、水を緑色に染める「アオコ」を見たことがあるだろう。微細藻類の異常発生によるこの現象は、近年とみに頻発している。だがアオコの発生で水道水が飲めなくなる事態は、州当局も想定外だった。
デトロイト湖は州都セーレム近郊の貯水湖。ここに蓄えられた水は、ノースサンティアム川を経由してセーレムの上水道に利用される。
水道施設内でアオコが確認された数日後の今年5月31日、水道水から藻類が生む毒素が検出された。市当局は緊急警報を発令。6歳未満の子供や肝臓・腎臓障害の患者、妊婦、授乳中の母親、高齢者、ペットに水道水を飲ませないよう呼び掛けた。
オレゴン州で水道水から毒素が検出されたのはこれが初めてだ。「頭を殴られた思いだった。飲料水として利用する上水道に藻類の毒素が侵入するとは」と、オレゴン州公衆衛生局の広報担当ジョナサン・モディは言う。
データが不十分なため、温暖化に伴って有毒藻類の異常発生が増えているとは断言できない。だが水温が上がれば藻類の成長が促され異常発生が多発すること、それにより水質汚染の危険性が高まることは確かだ。
大半の藻類は無害だが、藍藻(らんそう、シアノバクテリア)の仲間の一部は強力な有毒物質をつくる。ヒトを含む大型哺乳類も摂取すれば死ぬことがある。
アメリカでは、上水道に利用される川や湖沼の90%以上がアオコの発生しやすい状態になっているとの報告もある。さらに気になるのは、藻類の毒素に関して明確な水質基準が設定されていないこと。米環境保護局(EPA)は今年初めて、試験的な基準を発表したばかりだ。
多数の死者が出た事例も
藻類の毒素を除去するにはオゾン消毒など特殊な処理が必要だが、水道施設の多くはまだそうした処理システムを導入していない。そのため水源が汚染されたら、住民に水道水の利用を控えてもらうしかなく、利用禁止が数週間に及ぶこともある。
今のところアメリカでは藻類の毒素による死者は出ていないが、いつ出てもおかしくない。毒素の1種ミクロシスチンは基準量を超えて摂取すれば、肝臓と腎臓の障害を引き起こす恐れがあると、オレゴン州公衆衛生局は警告する。ブラジルでは96年にミクロシスチンで汚染された貯水池の水を人工透析に使ったために、透析患者52人が死亡する事故が起きた。
カンザス州ノートン郡では今年6月、水源のセベリウス湖で神経毒のアナトキシンを産生する藻類の異常発生が確認され、大騒ぎになった。この毒素を摂取すると、筋肉が麻痺するなどして死に至ることがある。幸い水道水からは毒素は検出されなかったが、もしも汚染されていたら当局は頭を抱えただろう。
濾過装置では毒素は除去できない。シアノバクテリアは塩素などの消毒剤で殺せるが、バクテリアは死滅するときに毒素を大放出するため、かえって汚染がひどくなる場合がある。毒素は熱にも強いため、汚染された水は沸騰させても有毒だ。
毒素の除去は困難なため、多くの州はアオコの発生を減らそうと窒素やリンを多く含む農業排水などの流入を制限し、水源の富栄養化を防ごうとしている。
一方、オレゴン州では毒素を確実に除去しようと、各地で最新式の浄水施設の建設が進んでいる。毒素の除去は州内の水道施設の「ニューノーマルになったようだ」と、モディは言う。
<本誌2018年9月18日号「特集:温暖化を加速させるホットハウス現象」より転載>
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