関西空港、露呈した巨大欠点 「国際空港」として最悪レベルの情報発信

2018年9月12日(水)07時00分
さかい もとみ(在英ジャーナリスト)*東洋経済オンラインより転載

石井啓一国土交通相は9月7日、関空の復旧計画を発表した中で「空港アクセス鉄道は4週間以内に復旧」と目標を述べたが、現状としてタンカーがぶつかった道路部分の橋桁は線路側へと張り出しており、一見して大きなダメージを受けたことは明らかだ。

空港へのシャトルバス車内から見た空港橋のタンカー衝突部分。橋桁が線路に張り出し、道路標識が大きく傾いている(写真:traicy後藤卓也氏)

空港へのシャトルバス車内から見た空港橋のタンカー衝突部分。橋桁が線路に張り出し、道路標識が大きく傾いている(写真:traicy後藤卓也氏)

さらにややこしい問題が一つ残されている。連絡橋はKAPでなく、国の資産となっており、改装作業の進捗についても「国にお任せ」というのが現状だ。関西経済をけん引する大きなムーブメントと言えるインバウンド客の維持に加え、大阪万博の誘致成功も目指すさなかにあって、関空の復活成功のカギを握る連絡橋の再開に向けての工事は「国としての最優先事項」として進められることになるのだろうか。

ムノント共同CEOは当面の交通アクセスについて、T1の暫定運用開始時に空港まで鉄道が使えないことを念頭に「シャトルバスとリムジンバスなど道路を使った輸送の最適化について検討したい」との考えを述べている。

伊丹と神戸への便数振り分けはあるのか?

関西圏には関空のほか、国内線専用の伊丹空港と神戸空港の計3空港が運用されている。現在、3空港が民営化されておりいずれもKAPの傘下となっている。「同じ会社が運営しているのなら、関空で飛べない分を他に振り分ければいいじゃないか?」という論議が盛んに行われており、これを受け、KAP側も関空の全面再開までの暫定措置という見地で「運航可能便数」について具体的な試算を行った。

その便数は、すでに各種メディアで報じられているように、「2空港で1日当たり70便(離発着それぞれを1便と数える)が可能」というもので、内訳は伊丹に40便、神戸に30便だとしている。KAPはこの試算について「国内・国際線や機体の大小(席数)を問わず、ざっくりとした目安」と説明。しかし、いずれの空港がある自治体も運用時間の延長に難色を示していること、さらに国際線の運航には税関、出入国管理、検疫(CIQ)といった空港内設備の改装も必要となり、「2空港への振り分け」を実行に移すまでのハードルは依然として高い。

これについてKAPのムノント共同CEOは「T1の再開状況のスピードを見極めながら進めたい」とした上で「就航地などの最適化に努める」と述べており、2空港への振り分けの是非については依然として慎重であることを伺わせる。ただ一方で、神戸空港を運航拠点(ハブ)とするスカイマークの佐山展生会長はかねて神戸の国際化に意欲を見せており、今回の関空便の振り分けを機に、一気に国際空港としての整備を行う可能性もあろう。

とりあえず9月14日ごろには、T1のいずれかの部分を使って部分的な再開にこぎ着けることを目下の目標としている。関空は近隣諸国のインバウンド需要が大きいとはいえ、国際空港である以上、やはり花形である欧米との長距離便が一日も早く飛んでほしい、というのが関係者の願いでもある。

しかし長距離便は、乗組員のやりくりや機内食の準備、貨物の装填など運用面において短距離便とは比べ物にならないほど広範な準備が必要となる。そんな事情から、ムノント共同CEOは「欧米便を関空へ再乗り入れさせるのは、やはり後回しになると考えざるを得ない」との現実的な見方を述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ代表団が訪韓、武器支援を要請=報道

ワールド

NZ中銀、政策金利0.5%引き下げ 追加緩和を示唆

ワールド

レバノン北部のシリア国境に初のイスラエル空爆と閣僚

ビジネス

鴻海、トランプ関税の影響軽微と予想 世界的な生産拠
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳からでも間に合う【最新研究】
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 4
    放置竹林から建材へ──竹が拓く新しい建築の可能性...…
  • 5
    「健康食材」サーモンがさほど健康的ではない可能性.…
  • 6
    こんなアナーキーな都市は中国にしかないと断言でき…
  • 7
    早送りしても手がピクリとも動かない!? ── 新型ミサ…
  • 8
    トランプ関税より怖い中国の過剰生産問題
  • 9
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 10
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 8
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中