最新記事

世界遺産

文化遺産がリニューアルに失敗? マレーシアのバトゥ洞窟、極彩色にした階段に非難殺到

2018年8月30日(木)18時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

色鮮やかな蛍光色のグラデーションに塗り替えられた階段。 The Star Online / YouTube

<美しい景観が人気のヒンドゥー教の寺院が、改修工事をしたところ「周囲にマッチしない」と大ブーイングを浴びている。観光誘致に力を入れるマレーシア政府も巻き込んだ論争に──>

マレーシアの首都クアラルンプール郊外にあるヒンドゥー教の聖地「バトゥ・ケイブ(バトゥ洞窟)」にある洞窟内の寺院に通じる階段が改修工事で極彩色に塗り替えられたところ、これが周囲の景観と不釣り合いという反発、悪評が広がり、「塗り替え」を許可した覚えはないとする監督官庁と寺院側が対立する事態に発展している。

クアラルンプールからマレー鉄道で約30分、バトゥ洞窟駅で下車して進むと高さ43メートルの黄金色に輝く軍神像が迎えてくれる。そのわきにある272段の階段を上りつめた約4億年前の石灰岩による洞窟内部がヒンドゥー寺院となっており、マレーシアの文化遺産として登録され、保護の対象となっている。洞窟内は高さ約100メートルあり、一部は天頂部の岩が開いており、空を臨むこともできる神秘的な場所として世界中の観光客に人気の「パワースポット」ともなっている。

参考記事:マレーシア、観光誘致ロゴに批判止まず作り直し「オランウータンがサングラス? あり得ない!」

今回問題となっているのはその階段部分で、もともとは手すり以外は地味な色だったものが、改修工事の一環として赤、黄、青などの極彩色に塗り替えられた。

これが周辺住民やネチズンの間で「周囲の景観に全然マッチしていない」「センスが悪い」などの批判が殺到、ついに文化遺産を管轄する政府機関が実態調査に乗り出すまでになっている。

newsweek_20180830_180245.JPG

こちらが塗り替えられる前の階段。歴史の重みを感じさせるような色合いだ。(撮影筆者)

食い違う寺院と政府の発言

マレーシアの文化財保護法40条では、文化財に指定された建物、施設に関し、改修や補修を含む各種工事、何らかの手を加える場合には文化遺産を担当する文化遺産局(JWN)に届け出と許認可が必要であるとされている。

ところが寺側の改修委員会は「文化遺産に指定されているのは寺院であって、そこに至るための階段は遺産には含まれておらず、そもそも許認可どころか届け出すら必要はないものだ」として法令違反ではない、との立場を明らかにしている。

これに対しJWN側は「文化遺産はその周囲の建物、施設、景観を含めた全体であり、当然階段もその付帯設備として届け出る対象になる」と主張。今回の無許可塗り替えは法律違反の可能性があると態度を硬化させている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、5月中旬にサウジ訪問を計画 初外遊=関

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中