最新記事

インドネシア

熱戦続くアジア大会、スタジアムの外では警備のため超法規的殺人

2018年8月26日(日)13時14分
大塚智彦(PanAsiaNews)


対テロ特殊部隊「デンスス88」が今月もテロリスト4人を逮捕、家宅捜査を行ったことを伝える現地メディア KOMPASTV / YouTube

大会期間中はテロも最高度の警戒

ティト国家警察長官はアジア大会開催直前の8月7日に、第2の都市スラバヤで5月に発生した連続爆弾テロ以降、強化したテロ対策で容疑者283人を逮捕したと明らかにしている。(「アジア大会開催直前、インドネシアは厳戒態勢 5月以降テロ容疑で283人逮捕」) スラバヤの連続テロは爆弾を使うなどインドネシアで最も過激な活動をしているテロ組織「ジェマ・アンシャルット・ダウラ(JAD)」のメンバーらによる犯行だったことから、警察の対テロ特殊部隊などによる集中的なテロ捜査はJADのメンバーや家族、シンパを対象に実施され、テロ容疑者として283人を逮捕。家宅捜索や押収で爆弾テロを未然に防止するなどそれなりの成果を上げてきた。

アジア大会の成功はジョコ・ウィドド大統領にとっても2019年4月に控えた大統領選での再選に結びつく「実績」であるだけに、面子をかけたテロ対策、犯罪対策を徹底している。このため開会期間中は会場、選手村、空港などに国軍兵士、警察官約4万人を動員して最高度の警戒態勢を続けている。

しかし捜査や摘発の現場では、アムネスティが指摘するような「アジア大会成功」の大義の下で警察官の不要な発砲が実際に起きていたとすれば、人権軽視との指弾を大統領選の対立候補から受ける可能性もあり、今後慎重な対応が求められることになりそうだ。

アムネスティ・インドネシアのウスマン・ハミド代表はマスコミの取材に対し「警察官は銃犯罪でない容疑者でも根拠なく不要で過剰な実力行使、つまり射殺していた疑いがある。国際大会の開催は容疑者の基本的人権を無視してよい理由にはならない」と指摘している。

また同じく国際的人権団体の「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」も7月にこうした警察官による犯罪容疑者に対する超法規的殺人へのインドネシア政府の真相解明を求める事態となっている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中