熱戦続くアジア大会、スタジアムの外では警備のため超法規的殺人
大会期間中はテロも最高度の警戒
ティト国家警察長官はアジア大会開催直前の8月7日に、第2の都市スラバヤで5月に発生した連続爆弾テロ以降、強化したテロ対策で容疑者283人を逮捕したと明らかにしている。(「アジア大会開催直前、インドネシアは厳戒態勢 5月以降テロ容疑で283人逮捕」) スラバヤの連続テロは爆弾を使うなどインドネシアで最も過激な活動をしているテロ組織「ジェマ・アンシャルット・ダウラ(JAD)」のメンバーらによる犯行だったことから、警察の対テロ特殊部隊などによる集中的なテロ捜査はJADのメンバーや家族、シンパを対象に実施され、テロ容疑者として283人を逮捕。家宅捜索や押収で爆弾テロを未然に防止するなどそれなりの成果を上げてきた。
アジア大会の成功はジョコ・ウィドド大統領にとっても2019年4月に控えた大統領選での再選に結びつく「実績」であるだけに、面子をかけたテロ対策、犯罪対策を徹底している。このため開会期間中は会場、選手村、空港などに国軍兵士、警察官約4万人を動員して最高度の警戒態勢を続けている。
しかし捜査や摘発の現場では、アムネスティが指摘するような「アジア大会成功」の大義の下で警察官の不要な発砲が実際に起きていたとすれば、人権軽視との指弾を大統領選の対立候補から受ける可能性もあり、今後慎重な対応が求められることになりそうだ。
アムネスティ・インドネシアのウスマン・ハミド代表はマスコミの取材に対し「警察官は銃犯罪でない容疑者でも根拠なく不要で過剰な実力行使、つまり射殺していた疑いがある。国際大会の開催は容疑者の基本的人権を無視してよい理由にはならない」と指摘している。
また同じく国際的人権団体の「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」も7月にこうした警察官による犯罪容疑者に対する超法規的殺人へのインドネシア政府の真相解明を求める事態となっている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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