最新記事

難民危機

トルコ経済危機と難民危機の危うい相関関係

A New Refugee Crisis?

2018年8月24日(金)16時10分
クリスティナ・マザ

シリア内戦は難民危機を常態化させた(シリアとの国境付近にあるトルコの難民キャンプ) UMIT BEKTAS-REUTERS

<経済危機のトルコが国内で抱え切れず「防波堤」にヒビが? 再びヨーロッパに大量流入のおそれも>

経済危機に直面したトルコが、数百万人の難民を抱え続けることができるだろうか――そんな懸念が生じている。

現在、トルコには350万人以上のシリア難民がいる。シリア以外の中東諸国やアフリカ北部からの難民も50万人に及ぶ。

彼らの多くは、16年3月にEUとトルコの間で結ばれた難民協定に基づいてトルコ国内にいる。この協定により、トルコ経由でギリシャに到着した難民は、トルコに強制送還されることになった。

その際、トルコに1人送還するのと引き換えに、既にトルコが受け入れている難民1人をEU加盟国に定住させる。EUはさらに、難民を定住させる費用としてトルコに60億ユーロ(約7800億円)の支援を行う。

ただし、1対1の交換でEUが受け入れる難民は、7万2000人が上限と定められている。シリアでは今も激しい内戦が続き、バシャル・アサド大統領は数万人の反政府勢力をシリア北部から排除しようとしている。今後1年でさらに100万人の難民が、隣国トルコに流れ込む可能性もある。

「トルコには400万人近い難民がいて、受け入れに積極的な政府に庇護されている。レジェップ・タイップ・エルドアン大統領は、難民対策に予算の枠外で200億ドルを投じると語っている。ただし、さらに数百万人増えたらどうなるだろうか」と、アメリカのシンクタンク戦略国際問題研究所のブレント・アリジラは語る。

増え続ける移民をトルコが支え切れなくなれば、ヨーロッパは再び難民流入の危機に直面しかねない。その場合、政治的にも大きな影響が生じる恐れがある。特にドイツのアンゲラ・メルケル首相は、既に難民政策をめぐって連立政権内で対立していた。

メルケルのキリスト教民主同盟(CDU)と姉妹政党のキリスト教社会同盟(CSU)は移民に厳しいという保守政党の立場を維持したい。CSUの党首であるホルスト・ゼーホーファー内相は、政府が難民の受け入れを制限する手段を取らなければ、内相を辞任すると牽制していた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中