最新記事

ドキュメンタリー映画

かわいいだけじゃない! 映画『皇帝ペンギン ただいま』で温暖化問題を考える

2018年8月23日(木)16時30分
大橋 希(本誌記者)

koutei180823-02.jpg

50年以内に皇帝ペンギンは絶滅すると指摘する研究者もいる (c) BONNE PIOCHE CINEMA - PAPRIKA FILMS - 2016 - Photo : (c) Daisy Gilardini

――ペンギンの生態の特にどんな部分に、温暖化は影響するのか。

いくつかあるが、温暖化により南極で頻繁に雨が降るようになったことの影響がある。ヒナの羽毛には防水性がないので、雨に濡れたら凍死するしかない。今はすごい数のヒナが亡くなっている。そうした状況を見た研究者たちは、このまま温暖化が続けば50年以内に皇帝ペンギンは絶滅すると言っている。

――世界は温暖化防止の方向に向かっていると思うか。

COP21の採択をみたときには、これはいい方向だと思った。でもその後、特にトランプ米政権の温暖化懐疑主義のような動きを見ると、COP21は何だったんだと思う。今の状況では、何の改善もされていないと感じている。

問題は、自然が変化していくスピードが非常に早いこと。人間がそれを認識しながら対処するにも、そのスピードに付いていけていない。大災害が起きて初めて人間は問題の大きさに気付くんだと思う。

――前作とはナレーションの形式を変えた理由は。

前作は、皇帝ペンギンの目で自分たちを語るスタイルだった。今回は私自身の客観的視点で、ペンギンたちを使いながら、環境を考える映画にしたかった。皇帝ペンギンの描き方が変わったのでナレーションも変えたんだ。

――水中の撮影では危険なことも?

南極のあの水深の映像を人間が撮るのは世界で初めてのことだったので、関わった人たちはみんな未経験。やはり危険を覚悟しながらやった。水深100メートル、水温もマイナス2度くらいの中で、5時間、6時間という長時間の撮影で、しかも頭上には氷がかぶさった状態で撮らなければならないので。

もちろん参加しているダイバーは熟練したプロたちだったが、みんなが思っていたのは「ちゃんと南極基地に戻って来てほしい」ということだった。

――ペンギンは1匹?

何匹かを撮っている。ペンギンの外見は区別がつかないので、編集で1匹のようにしている。

――南極は人間にとっても過ごしにくい場所になってきている?

気温が1度や2度上昇したり、あるいは雨が降ったからといって人間の命が危うくなることはない。ただ雨が降れば、先ほど言ったようにヒナたちの生死に関わる。自分たちにとってはそれほどのことでもない気温上昇が、動物たちにはどれほどの影響を与えるのかということだ。環境問題を考えるうえで象徴的な現象だと思う。

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中