最新記事

電気自動車

EVをより長く、より安く 開発に動くサプライヤー、投資規模は日本の国家予算の4割に

2018年8月9日(木)11時45分

米ミシガン州トロイのノルスク・ハイドロの研究施設で、アルミニウム合金を調べる研究員。2018年2月撮影(2018年 ロイター/Nick Carey)

まるで魔法のようだった。デリー・フェイミ氏はビーカーのなかで沸騰する湯にバッテリーを次々に投入した。物理の常識で言えば、これはやってはいけない。電気的にショートを起こしてしまうはずだからだ。

だが、これは水と電気という非常に危険な組み合わせではない。米複合企業スリーエム(3M)のエンジニアであるフェイミ氏が実験のなかでバッテリーを投入しているのは「ノベック」という引火性・伝導性のない液体だ。3Mはノベックをスーパーコンピューターの冷却用に販売しているが、今ではバッテリー冷却用として自動車メーカーにも売り込みたいと考えている。

バッテリーの温度を安定的に低く維持できれば、電気自動車(EV)の航続距離を伸ばしやすくなる。つまり、バッテリーを低温に保つことで、自動車メーカーにとっては重要な問題の解決につながる可能性がある。EVの一般普及という点で、航続距離の短さが大きな妨げになっているからだ。

「ごらんのように、温度は一定だ」と、フェイミ氏。実験で使われたノベックの温度は、沸点である32度から動かなかった。3Mではこの製品をサーバ冷却用としてデータセンターに販売することも狙っている。

「自動車メーカーはバッテリーからギリギリ最大の能力を引き出す方法を見つけようと努力している」と語るのは、3Mに昨年創設された自動車電化対応プログラム部門を率いるレイ・エビー氏。「それこそまさに3Mの得意分野だ」

主要自動車メーカーは、今後数年のあいだにEVのニューモデルを何百種類も展開する計画だ。コンサルタント会社アリックスパートナーズの試算によれば、2023年までに最大2550億ドル(約28兆円)の投資が流れ込む。

2017年の世界中すべての自動車メーカー及びサプライヤーによる研究開発投資が計1150億ドルで、設備投資が計2340億ドルだったことを考えれば、その規模の大きさが分かる。

こうした投資の多くはサプライヤーに流れる。ただし、依然として内燃エンジン車よりも高いEV製造コストを引き下げる方法をサプライヤーが提供できることが条件になる。3Mや、他の自動車用テクノロジー企業は、他の市場と込みで量産効果を活かせる既存製品をEVに応用する方法を模索している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独クリスマス市襲撃、容疑者に反イスラム言動 難民対

ワールド

シリア暫定政府、国防相に元反体制派司令官を任命 外

ワールド

アングル:肥満症治療薬、他の疾患治療の契機に 米で

ビジネス

日鉄、ホワイトハウスが「不当な影響力」と米当局に書
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、何が起きているのか?...伝えておきたい2つのこと
  • 4
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 5
    「たったの10分間でもいい」ランニングをムリなく継続…
  • 6
    映画界に「究極のシナモンロール男」現る...お疲れモ…
  • 7
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 8
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 9
    「私が主役!」と、他人を見下すような態度に批判殺…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「汚い観光地」はどこ?
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 3
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 4
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 7
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 8
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 9
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 10
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中