EVをより長く、より安く 開発に動くサプライヤー、投資規模は日本の国家予算の4割に
米ミシガン州トロイのノルスク・ハイドロの研究施設で、アルミニウム合金を調べる研究員。2018年2月撮影(2018年 ロイター/Nick Carey)
まるで魔法のようだった。デリー・フェイミ氏はビーカーのなかで沸騰する湯にバッテリーを次々に投入した。物理の常識で言えば、これはやってはいけない。電気的にショートを起こしてしまうはずだからだ。
だが、これは水と電気という非常に危険な組み合わせではない。米複合企業スリーエム(3M)のエンジニアであるフェイミ氏が実験のなかでバッテリーを投入しているのは「ノベック」という引火性・伝導性のない液体だ。3Mはノベックをスーパーコンピューターの冷却用に販売しているが、今ではバッテリー冷却用として自動車メーカーにも売り込みたいと考えている。
バッテリーの温度を安定的に低く維持できれば、電気自動車(EV)の航続距離を伸ばしやすくなる。つまり、バッテリーを低温に保つことで、自動車メーカーにとっては重要な問題の解決につながる可能性がある。EVの一般普及という点で、航続距離の短さが大きな妨げになっているからだ。
「ごらんのように、温度は一定だ」と、フェイミ氏。実験で使われたノベックの温度は、沸点である32度から動かなかった。3Mではこの製品をサーバ冷却用としてデータセンターに販売することも狙っている。
「自動車メーカーはバッテリーからギリギリ最大の能力を引き出す方法を見つけようと努力している」と語るのは、3Mに昨年創設された自動車電化対応プログラム部門を率いるレイ・エビー氏。「それこそまさに3Mの得意分野だ」
主要自動車メーカーは、今後数年のあいだにEVのニューモデルを何百種類も展開する計画だ。コンサルタント会社アリックスパートナーズの試算によれば、2023年までに最大2550億ドル(約28兆円)の投資が流れ込む。
2017年の世界中すべての自動車メーカー及びサプライヤーによる研究開発投資が計1150億ドルで、設備投資が計2340億ドルだったことを考えれば、その規模の大きさが分かる。
こうした投資の多くはサプライヤーに流れる。ただし、依然として内燃エンジン車よりも高いEV製造コストを引き下げる方法をサプライヤーが提供できることが条件になる。3Mや、他の自動車用テクノロジー企業は、他の市場と込みで量産効果を活かせる既存製品をEVに応用する方法を模索している。