最新記事

イタリア

43人犠牲のジェノバ高速道路崩落 何が事故を呼び起こしたのか

2018年8月30日(木)11時00分

ひどい腐食

地元住民のコーディネーターを努め、橋の崩落によって自宅からの避難を余儀なくされているジュジー・モレッティさんは、橋の安全を守るため努力しているとの管理会社の説明を信用していた、と話す。

崩落する可能性は、「一度も考えなかった」と語るモレッティさん。「長い雷鳴のような、忘れられない音を聞いた。テラスにいた私のところに娘が飛んできて、橋が崩壊したと言ったとき、どの橋かと尋ねたぐらいだ」

7月の会合では、アウトストラーデの保安幹部であるマウロ・モレッティ氏が、1960年代の完成時には、最先端技術を使ったジェノバの誇りと考えられていたこの橋を、どのように海風が腐食しているかについて、住民に説明した。

この会合で同氏は、橋の補強と補修の新プロジェクトが承認されたと明らかにしたが、その報告はすでに補修工事にうんざりしている住民を、さらにがっかりさせただけだった。住民側は、橋の状態について彼を追及しなかった。だが、トラックが通ると橋が心配になるほど揺れていたと後で話す人もいた。

住民たちは知らなかったが、この会合の時点で、橋の道路面を支える鉄筋の一部がすでに10─20%程度腐食していたことが、ロイターが確認した2月の技術レポートで明らかになった。

これらの鉄筋やワイヤーが、コンクリートの塔から道路面を吊り上げて支えるケーブルとして使われている。橋を担当した建築デザイナーの故リッカルド・モランディ氏によるデザインの特徴として、これらの鉄筋はコンクリートで包まれており、腐食状況を把握するには精密なスキャン装置が必要だった。

大雨が降る中で起きた今回の崩落事故では、ワイヤーの腐食が捜査の焦点の1つだ。携帯電話で撮影された粗い映像を見ると、ワイヤーが1箇所で切れて、路面が200メートルにわたり下の谷に落下したように見える。

インフラ整備交通省に提出された2月の技術レポートでは、専門家がアストラーデによる橋の補修・補強計画を支持する理由として、腐食について簡単に言及している。

橋の閉鎖や交通規制を行わなかった理由を同省に問うと、腐食の状態がそれを必要とするほどではなかった、と回答した。アウトストラーデは、コメントしなかった。

アウトストラーデのためにミラノ工科大学がまとめた昨年10月の報告書も、車の往来による振動に対する腐食したワイヤーの反応に「異常な点」があると指摘していた。ジェノバ港を発着する大型コンテナトラックで、橋の交通量は多かった。

アウトストラーデと同大は報告書の公表を拒んでいるが、その一部が地元メディアにリークされた。報告書を作成した同大学のステファノ・デッラトーレ学部長は、報じられた主なポイントを認めた上で、橋に崩落の危険があると判断するためには、この調査だけでは十分でなかったと述べた。さらなる調査が必要だったと、同氏は語った。

「一部ワイヤーが適切に機能していなかった事実によって、ようやく(補強)工事が行われることになった。それにどれだけの時間的余裕があるかを把握するには、追加調査が必要だった」と、同氏は話した。

インフラ整備交通省とアウトストラーデは、この報告書についてコメントしなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物は反発、ウクライナ停戦合意なお不透明

ワールド

コロンビア大、親パレスチナデモで建物占拠の学生処分

ワールド

エアプサン火災、補助バッテリーのショートが原因か=

ワールド

アメリカン航空機、デンバー着陸後にエンジンから出火
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 3
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ?
  • 4
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 5
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 6
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 7
    SF映画みたいだけど「大迷惑」...スペースXの宇宙船…
  • 8
    「紀元60年頃の夫婦の暮らし」すらありありと...最新…
  • 9
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎…
  • 10
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 6
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 7
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 8
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 9
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 10
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中