誰に見せるためか?――金正恩氏、経済視察で激怒
その苦しい立場を、韓国の康京和(カン・ギョンファ)外交部長官が如実に吐露している。7月23日、「仁川聯合ニュース」は、アメリカから仁川国際空港に到着した康京和が、対北朝鮮制裁緩和の可能性について、「今は緩和する段階ではない」との認識を示したと報道した。彼女は、韓国政府が国連安全保障理事会の理事国に対し、対北朝鮮制裁の緩和を強調したのではなく、あくまでも「南北事業に必要な制裁の例外を認めてもらうためのものだった」と、何とも苦しい弁明をしている。
「制裁緩和のためには北朝鮮の実質的な非核化の措置が取られなければならない」というアメリカの立場に同調したことを示している。
韓国がこのようでは、金正恩としては当面はますます習近平にすり寄るしかないのだろう。
朝鮮戦争休戦協定締結記念日(7月27日)に合わせて外交部副部長が訪朝
7月25日、中国外交部の孔鉉佑(こう・けんゆう)副部長が訪朝した。孔鉉佑は中国政府の朝鮮半島事務特別代表でもある。朝鮮族中国人で、今年に入ってから任命された。中国政府が如何に北朝鮮問題を重視しているかの証左の一つと受け取ることができる。
中国外交部は定例記者会見では「中朝両国は隣同士。両国が正常な行き来を保っているだけだ」として、本当の目的をかわしたが、実際は7月27日の朝鮮戦争休戦協定締結記念日に合わせて訪朝したことは歴然としている。それは米朝間で滞っている朝鮮戦争の終戦宣言への、中国としてのメッセージでもあり、また中朝経済協力の具体化と、習近平訪朝への準備作業であることも明らかだ。
アメリカは北朝鮮の非核化に当たり、対北経済制裁の強化を維持することを強調しているが、中国は非核化を可能ならしめるためにも経済支援が不可欠だと考えている。
但し、7月9日のコラム<金正恩は非核化するしかない>にも詳述したように、その中国もまた北朝鮮には非核化を絶対条件として要求している。中国がアメリカと異なるのは、非核化に対する金正恩の意思が明確であれば、制裁を緩和し経済支援をして非核化が可能になる方向に持っていくという点だ。
この差異が、北朝鮮を取り巻く今後の東北アジア情勢を決定していくだろう。
なお中朝の雪解けは2017年11月の宋濤訪朝から始まっており、今年に入ってから金正恩は「中国は千年の宿敵」から「中国は友好的な国」に切り替えて、国内教育を始めている。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。