最新記事

北朝鮮

誰に見せるためか?――金正恩氏、経済視察で激怒

2018年7月26日(木)17時50分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

その苦しい立場を、韓国の康京和(カン・ギョンファ)外交部長官が如実に吐露している。7月23日、「仁川聯合ニュース」は、アメリカから仁川国際空港に到着した康京和が、対北朝鮮制裁緩和の可能性について、「今は緩和する段階ではない」との認識を示したと報道した。彼女は、韓国政府が国連安全保障理事会の理事国に対し、対北朝鮮制裁の緩和を強調したのではなく、あくまでも「南北事業に必要な制裁の例外を認めてもらうためのものだった」と、何とも苦しい弁明をしている。

「制裁緩和のためには北朝鮮の実質的な非核化の措置が取られなければならない」というアメリカの立場に同調したことを示している。

韓国がこのようでは、金正恩としては当面はますます習近平にすり寄るしかないのだろう。

朝鮮戦争休戦協定締結記念日(7月27日)に合わせて外交部副部長が訪朝

7月25日、中国外交部の孔鉉佑(こう・けんゆう)副部長が訪朝した。孔鉉佑は中国政府の朝鮮半島事務特別代表でもある。朝鮮族中国人で、今年に入ってから任命された。中国政府が如何に北朝鮮問題を重視しているかの証左の一つと受け取ることができる。

中国外交部は定例記者会見では「中朝両国は隣同士。両国が正常な行き来を保っているだけだ」として、本当の目的をかわしたが、実際は7月27日の朝鮮戦争休戦協定締結記念日に合わせて訪朝したことは歴然としている。それは米朝間で滞っている朝鮮戦争の終戦宣言への、中国としてのメッセージでもあり、また中朝経済協力の具体化と、習近平訪朝への準備作業であることも明らかだ。

アメリカは北朝鮮の非核化に当たり、対北経済制裁の強化を維持することを強調しているが、中国は非核化を可能ならしめるためにも経済支援が不可欠だと考えている。

但し、7月9日のコラム<金正恩は非核化するしかない>にも詳述したように、その中国もまた北朝鮮には非核化を絶対条件として要求している。中国がアメリカと異なるのは、非核化に対する金正恩の意思が明確であれば、制裁を緩和し経済支援をして非核化が可能になる方向に持っていくという点だ。

この差異が、北朝鮮を取り巻く今後の東北アジア情勢を決定していくだろう。

なお中朝の雪解けは2017年11月の宋濤訪朝から始まっており、今年に入ってから金正恩は「中国は千年の宿敵」から「中国は友好的な国」に切り替えて、国内教育を始めている。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中