最新記事

北朝鮮

誰に見せるためか?――金正恩氏、経済視察で激怒

2018年7月26日(木)17時50分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

北朝鮮の金正恩委員長 Jonathan Ernst-REUTERS

6月末から7月中旬にかけて、金正恩氏は北朝鮮の経済開発区を視察し開発の遅れに激怒したが、それは習近平氏に改革開放の本気度を見せて制裁を緩和してもらい、習氏の訪朝を促すための号砲だった。

先ずは中朝国境の新義州経済特区から

(初出以外、敬称略)

北朝鮮の「労働新聞」は7月1日、第一面と二面の全ページを使って、金正恩委員長が李雪主(リ・ソルジュ)夫人を伴って、新義州(シニジュ)経済特区にある化粧品工場などを視察した様子を報道した。

これは米朝首脳会談(6月12日)後の3回目の訪中(6月19日、20日)以降、初めて公開した金正恩の活動報道である。

5月2日付けのコラム<「中国排除」を主張したのは金正恩?――北の「三面相」外交>や、5月7日付のコラム<中国、対日微笑外交の裏――中国は早くから北の「中国外し」を知っていた>で書いたように、新義州は中国の遼寧省丹東市に隣接する経済特区で、2002年に金正恩の父親である金正日氏と中国との間にもめごとがあり、何度も開発が中断されている開発区だ。

金正恩が習近平国家主席と最後に会ったあとに最初に公けの場に姿を現したのが、この新義州経済特区であったことは、金正恩が表面的には習近平に対して屈服し、中国が要求する「社会主義体制における改革開放」に本気で着手していることを習近平に示すためだと解釈することができる。

そうすれば中国は国連安保理による制裁緩和を呼び掛けてくれるし、また個別にでも緩和してくれるだろうことを金正恩は期待している(と中国側は分析している)。

その何よりの証拠に、アメリカ時間の6月28日、中国とロシアが国連安保理で、対北朝鮮の経済制裁に関して緩和するように提案していたことがわかった。アメリカなどの反対で廃案となったが、中露は予め制裁緩和のための報道声明案を用意していた。

金正恩が新義州の化粧品工場を視察したのは、時差はあるものの、まさに同じ日の6月29日である。

6月19日、20日の第3回訪中で、習近平との間で約束が成されていたものと解釈する以外にない。

習近平は、「約束通り、国連安保理に呼びかけましたよ」と金正恩に見せ、金正恩は「約束通り、核開発を放棄して、改革開放による経済発展に専念していますよ」と、習近平に見せる。

二人は互いに相手に誠意を見せて、何とか信用を勝ち取ろうと必死だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場・寄り付き=ダウ約300ドル安・ナスダ

ビジネス

米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極

ビジネス

FRBとECB利下げは今年3回、GDP下振れ ゴー

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中