最新記事

日米関係

イージス・アショアは変わる日米同盟の象徴か

2018年7月25日(水)17時20分
ミナ・ポールマン

ハワイ沖の日米合同演習でSM3の発射試験を行うイージス艦きりしま(10年10月) U.S. NAVY

<日本が米朝会談後に警戒態勢を緩める一方で、高価なミサイル迎撃システムを買う理由>

日本政府は6月29日、北朝鮮のミサイル攻撃に対する自衛隊の警戒監視レベルを緩和した。

日本は16年8月以来、北朝鮮のミサイル発射実験を受けて、迎撃ミサイルSM3を搭載した海上自衛隊のイージス艦を常時展開し、厳戒態勢を敷いてきた。さらに北朝鮮のミサイルが北海道上空を通過した17年8月からは、地上配備型迎撃ミサイルPAC3の3個部隊も展開させていた。

これまでイージス艦は日本海で24時間態勢の警戒を続けてきたが、緩和後は兆候があれば24時間以内に展開できる態勢に改めた。PAC3も、24時間態勢の警戒監視は解除された。

政府関係者の一部は引き続き警戒を呼び掛けているが、6月12日の米朝首脳会談で日本の懸念が少なくともある程度低下したのは確かなようだ。同会談後、菅義偉官房長官はこう語った。「日本にいつミサイルが向かってくるか分からない状況では明らかになくなった」

だが短期的な楽観論の一方で、長期的な防衛力強化は着々と進んでいる。政府関係者によると、防衛省は導入予定の地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」にロッキード・マーティン社製の最新レーダーSSRを搭載する方針だ。

貿易不均衡是正の道具に

SSRの探知距離は1000キロ超で、イージス艦搭載レーダーの2倍以上。23年度の運用開始を目指しており、配備候補地の秋田県と山口県から朝鮮半島全体を24時間態勢で監視可能になる。同システムが稼働すれば、海上自衛隊のイージス艦は東シナ海での中国の監視任務に振り向けられる。

この種の日本の動きについて、英ワーウィック大学のアジア研究者クリストファー・ヒューズは北朝鮮の脅威の「特大化」と呼び、日本は北朝鮮を隠れみのにして防衛力の強化を進めているが、真の狙いは中国にあると指摘した。日本から見れば、国際社会で悪役扱いされる北朝鮮を非難するほうが、中国を非難するより政治的コストが小さい。

ただしトランプ時代の今、日本のミサイル防衛態勢強化は別の意味で重要な意味を持つと言えるかもしれない。イージス・アショアの導入コストは当初の見積もりの最大2倍に膨らむ公算が大きく、トランプ米大統領が強く求める日米貿易不均衡是正に貢献しそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

鴻海、目指すのは日産との協業 買収ではない=会長

ビジネス

中国SMIC純利益38%減、レガシー半導体投資が収

ビジネス

午前の日経平均は小幅続伸、トランプ高関税警戒が上値

ビジネス

いすゞ、米国に新生産拠点 商用車の電動化にらみ約4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザ所有
特集:ガザ所有
2025年2月18日号(2/12発売)

和平実現のためトランプがぶち上げた驚愕の「リゾート化」計画が現実に?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 2
    2025年2月12日は獅子座の満月「スノームーン」...観察方法や特徴を紹介
  • 3
    iPhoneで初めてポルノアプリが利用可能に...アップルは激怒
  • 4
    世界のパートナーはアメリカから中国に?...USAID凍…
  • 5
    フェイク動画でUSAIDを攻撃...Xで拡散される「ロシア…
  • 6
    研究者も驚いた「親のえこひいき」最新研究 兄弟姉…
  • 7
    便秘が「大腸がんリスク」であるとは、実は証明され…
  • 8
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 9
    0.39秒が明暗を分けた...アルペンスキーW杯で五輪メ…
  • 10
    メーガン妃の最新インスタグラム動画がアメリカで大…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 3
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 4
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 5
    戦場に響き渡る叫び声...「尋問映像」で話題の北朝鮮…
  • 6
    Netflixが真面目に宣伝さえすれば...世界一の名作ド…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    研究者も驚いた「親のえこひいき」最新研究 兄弟姉…
  • 9
    メーガン妃の最新インスタグラム動画がアメリカで大…
  • 10
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 9
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中