世界最多のイスラム教徒擁するインドネシアで過激思想が浸透? 温床はモスクと大学
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テロ計画を準備していたリアウ大学OBの強制捜査を行う対テロ特殊部隊 Antara Foto Agency-REUTERS
<多民族国家のインドネシアは、宗教においても信教の自由が保証されている。だが、過激思想を訴える勢力が密かに国家を蝕みつつあるという>
世界最大のイスラム教徒人口を擁しながらイスラム教を国教とせず、他宗教を認めることで国是でもある「多様性の中の統一」を「寛容」と「共生」で実現しているインドネシア。そのイスラム教でも大半を占める「穏健派」に挑戦するかのように過激思想に基づいた「急進派」がじわじわと勢力を拡大しつつある。その過激思想があろうことかイスラム教の礼拝施設である「モスク」と高等教育の現場である「大学」を「宣教活動拠点」として、静かにしかし確実に浸透していることに穏健イスラム教団体や政府は危機感を強めている。
大学構内でテロ容疑者が爆弾製造の衝撃
2018年6月2日、国家警察対テロ特殊部隊「デンスス88」は、事前に寄せられた情報を基にスマトラ島リアウ州プカンバルにある国立リアウ大学構内に踏み込んだ。そして政治社会学部の学生会館で起爆可能な即製爆弾、高性能爆薬、手榴弾などの武器を押収するとともに同会館で寝泊まりしていた同大学卒業生3人を反テロ法違反容疑で逮捕した。3人のうち1人はインドネシアのイスラムテロ組織「ジェマ・アンシャルット・ダウラ(JAD)」のメンバーとされ、3人は州議会と首都ジャカルタの国会を標的としたテロを計画準備中だったという。
国立大学構内で爆弾が製造され、卒業生がテロ組織のメンバーとして関与していたことはインドネシア教育界に大きな衝撃を与え、政府、高等教育省などは各大学に「キャンパスがテロの温床にならないように」「学生が過激なテロ思想に染まらないように」と各種対策を早急に講じるよう指示したのだった。
ムハンマド・ナシル技術研究・高等教育相はリアウ大学の事案を深刻に受け止め、各国立大学の学長と「キャンパスでの過激思想の浸透防止」に関する協議を順次行っている。
こうしたなか、ジャワ島中部のスマランにあるディポネゴロ大学の法学部教授がソーシャル・メディア上に非合法化されたイスラム団体「ヒズブット・タフリル・インドネシア(HTI)」を支持する書きこみを行ったことが問題視され、教壇を追放された。
国立大学では「国家情報庁(BIN)と情報交換し、大学生の思想動向、活動を把握したい」(ブラヴィジャヤ大学・マラン)、「学生、教職員のキャンパス内での活動を定期的に調査、監視している」(インドネシア大学・ジャカルタ)など対過激思想で学生や教職員への監視、締め付けが厳しくなっており、「キャンパスの自治」「思想の自由」への制限が強まっているという。