中国政界の「消防隊長」王副主席 米中摩擦では火消し役の影薄く
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7月9日、米中貿易摩擦が激化したというのに、中国の汚職対策や国内金融問題への対応で中心的な役割を果たし、「消防隊長」の異名を取る王岐山副主席(写真左)の影が薄い。2015年北京で撮影(2018年 ロイター/Jason Lee)
米中貿易摩擦が激化したというのに、中国の汚職対策や国内金融問題への対応で中心的な役割を果たし、「消防隊長」の異名を取る王岐山副主席の影が薄い。
王氏は副首相時代に米中戦略経済対話の中国側代表も務め、副主席への抜擢はトランプ米大統領対応の中核を担うためと外交筋は受け止めていた。それだけに米中貿易摩擦問題で王氏に表立った動きがみられないのは奇異なことだ。
王氏は3月の副主席指名前にはテリー・ブランスタッド駐中国米大使やスティーブ・バノン前首席戦略官らと会談していた。米業界筋によると、この数カ月間には複数の米企業幹部とも秘密裏に懇談している。
しかし表舞台に表れる機会は少なく、最近では5月に北京で米企業幹部と会談し、5月末にロシアの会合に参加した程度にすぎない。王氏にまつわる報道自体も先々週にバングラデシュの外相と会談したことが伝えられた程度だ。
トランプ氏は習近平国家主席との友好的な関係をアピールし続けているが、王氏の影の薄さは米中関係にとって悪い兆候だとチャイナウォッチャーはみている。近い将来、米中貿易摩擦に打開の見通しがあるのなら、王氏はもっと大きな役割を担っているはずだという。
米戦略国際研究所(CSIS)のスコット・ケネディ副部長は「交渉がまとまり、それが守られるというよほど大きな確信を持てない段階で、王氏が動くのは馬鹿げたことだろう」と話す。
王氏の米企業幹部との会合の様子を知る関係筋によると、王氏は「話し合いによって確実な結果が得られるとの見通しを持つことができた場合でなければ」関与しないという。この関係筋は「交渉の余地があれば、どこかの時点で割り込んでくるだろう」と話した。
劉鶴副首相が中国側代表を務める米中通商交渉は話し合いが決裂し、米国は6日に中国からの輸入340億ドル相当に追加関税を導入。中国も同規模の米国からの輸入に追加関税を課し、報復措置に出た。米国はさらに中国からの輸入160億ドル相当に追加関税を課す第2弾の制裁関税を検討しており、制裁規模も最大で5000億ドル相当に拡大すると警告している。
外交筋によると、王氏の外交スタイルはこれまで水面下で目立たないものであり、意思決定や政治面での重要な地位を失った兆候は見られないという。
今月70歳になる王氏は、王毅外相や、共産党の中央外事工領導弁公室主任を務める楊潔チ政治局員よりも政界での地位が高い。実際に王氏の仕事ぶりを目にした消息筋によると、王氏はハーバード大で教育を受けた劉副首相と違って英語は話さないが、率直さを好み、非公開の場では単刀直入な物言いをするという。