最新記事

貿易戦争

中国、エタノールガソリン普及に暗雲 対米摩擦で原料トウモロコシの供給懸念

2018年7月9日(月)18時20分

7月5日、中国が2020年までにエタノール混合ガソリンを全国に普及させようという計画は、雲行きが怪しくなってきた。2017年9月、山東省聊城でトウモロコシを乾かす作業をする女性(2018年 ロイター)

中国が2020年までにエタノール混合ガソリンを全国に普及させようという計画は、雲行きが怪しくなってきた。生産者や専門家の話では、対米貿易摩擦激化を背景に、原料のトウモロコシの供給懸念が強まっているからだ。

中国政府がこうした計画を打ち出したのは昨年9月。国有投資会社の中国国家開発投資公司(SDIC)や、中糧集団(COFCO)、吉林燃料などは一斉に、自動車燃料用エタノール生産を2倍に引き上げるための多額の設備投資計画を策定した。

しかしそれ以降、当局が先に進めることを認めた主な案件は、SDICが申請した遼寧省で年間30万トンを生産する工場を建設する計画ただ1つだ。3人の関係者によると、大手生産者3社が提出した工場拡張計画はいずれも政府の承認がないため、手続きが止まっている。

政府がエタノール混合ガソリンの全国普及の予定時期を修正したり、計画自体の変更を公表したわけではない。

ただ生産者や政策担当者、アナリストなどを取材すると、設備投資計画承認の遅れからは、政府が当初の計画を密かに見直している状況にあることがうかがえる。

折しも対米貿易摩擦によって、米国産のトウモロコシやエタノールの関税が今後さらに上がり、国内の供給不足を補うために輸入しようとしても割に合わなくなる恐れが出てきている。

こうした中でコンサルティング会社Zhuochuangのアナリスト、マイケル・マオ氏は「計画はあまりに野心的で、前進させるには規模が大き過ぎる。政策に変更が加えられるかもしれない」と述べた。

幻の投資ブーム

2020年の目標を達成できるほどのエタノール生産能力を確立するのは、これまでもずっと業界にとって至難の業だった。

Zhuochuangの試算では、昨年の自動車燃料用エタノール生産能力は345万トンで、ガソリンへの混合比率10%を全国で実施するために必要な1500万トンをはるかに下回っている。そして足元まで見ても、業界が期待したような設備投資ブームが起きる兆しは乏しい。

黒竜江省では、省政府が新たなエタノール工場建設の申請受け付けを開始したものの、申し込んだ企業は依然としてなしのつぶての状態に置かれている。ある生産者の新工場建設責任者は「この職務に就いてからは主に書類作成しかしていない。省政府当局者としばしば面会しているのだが、次の段階について何の情報もない」と打ち明けた。

2人の関係者は、COFCOもエタノール生産の新工場建設計画を始動せずに、政府が今後発表する方針を待つ構えだと話した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中