最新記事

安全保障

NATO会議と米ロ会談:無知なトランプの訪欧に震えるヨーロッパ

2018年7月4日(水)19時45分
ステファン・ブランク(米外交政策評議会上級研究員)

6月のG7でもトランプは貿易問題で同盟国の指導者を侮辱し、追加関税の報復合戦に火をつけた Adam Scotti/REUTERS

<欧州の安全保障など何もわかっていないトランプがNATOの結束をぶち壊し、米ロ首脳会談では米朝会談の二の舞のような一方的譲歩をしかねない>

7月11~12日にブリュッセル(ベルギー)で開かれるNATO(北大西洋条約機構)首脳会議と、16日にヘルシンキ(フィンランド)で開かれるロシアのウラジーミル・プーチン大統領との初の米ロ首脳会談。両方とも、ドナルド・トランプ米大統領が出席する。トランプがまた何をしでかすか、ヨーロッパの指導者を不安が覆っている。

NATOと欧州各国政府は表向き歓迎ムードを高めようと苦心しているが、本音ではトランプの政策や同盟国間の結束、さらにヨーロッパの安全保障がどうなるか懸念している。

トランプはこれまで公私ともに欧州の指導者を激しく非難し、6月にカナダで行われた主要7国(G7)首脳会議を混乱に陥れた。彼はアメリカの同盟国を敵扱いし、いわれなき貿易戦争を仕掛けた。NATOを「NAFTA並みに悪い」と批判し、アメリカの外交政策の大きな成果の1つであるEU(欧州連合)を指して「アメリカを食い物にするために設立された」と言い放った。

フランスのマクロン大統領にEUからの離脱を勧めたこともある。クリミアはロシアの一部だと繰り返し、ロシアの侵略行為の肩をもった。アメリカをはじめとする西側諸国は、2014年にウクライナのクリミアを併合したロシアを非難し、制裁してきたが、トランプはその公式な立場を認めようとしない。

 矛盾と無知に彩られたお困り発言

これだけでもとんでもない過ちだらけだが、まだある。米国防総省は今、ドイツに駐留する米軍を撤退させる可能性を検討している(ロシアが攻めてきたらどうするのか)。トランプは2016年のアメリカ大統領選挙で、ロシアがトランプ有利になるよう介入したとされるロシア疑惑を、自身の顧問が認めたにも関わらず、否定し続けている。

ヨーロッパの外交官が不安を募らせるのも無理はない。今回のNATO会議では、対ロシア防衛で合意することが急務なのだが、できるのか。トランプは各国がNATOに拠出している防衛費が少な過ぎる、アメリカはバカを見ている、と去年から文句たらたらだった。

米ロ首脳会談では、トランプがプーチンに乗せられて(北朝鮮で金正恩委員長に乗せられたように)、首脳会談で一方的な譲歩をしてしまいかねない。準備をせずその場の雰囲気で物事を決めることを好むトランプとは対照的に、プーチンは徹底的に準備を行うことで知られている。

トランプの最近の発言からは、彼がヨーロッパの安全保障問題をよく理解しておらず、またNATOやEU、ヨーロッパの民主的な統合がアメリカにどれだけ大きな恩恵をもたらしているか、ということにも関心がない。

こうしたトランプの言葉と行動は、ヨーロッパ民主主義の解体を目論むプーチンとハンガリーのオルバン・ビクトル首相の思う壺だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中