認知症の改善効果をうたう健康サプリにご用心
94年にDSHEAが成立した際、サプリメントの成分は天然由来なので食品に近く、医薬品よりも規制は緩くていいというのが賛成派の主な論点だった。薬の代用品として安く提供すれば公共の利益になるとの主張もあった。
その後、サプリ業界は規制の網をかいくぐって商売を拡大したが、FDAの監視は不十分だった。例えば、新しい成分を使用する場合にはメーカーがFDAに届け出る義務がある。しかしFDAによれば、適正な情報開示の行われていない成分が大量に出回っている恐れがある。
欧州などで広く脳卒中の治療に使われているビンポセチンに関しても、FDAによる監視には疑問符が付く。
ビンポセチンがアメリカで、アルツハイマー病や認知症の治療薬として注目されたのは80年代のことだ。しかし治験では有効性が確認されず、医薬品として認可されることはなかった。
しかし90年代後半、ビンポセチンはDSHEAの下で復活した。血流の改善効果が期待されることから、業界はこれを「脳のバイアグラ」と持ち上げた。現在、ビンポセチンは単体で、あるいはプロセラやニューロ・ナチュラル・リコールといったサプリの成分として広く用いられており、業界関係者によれば、年間で2000万~4000万ドルの売り上げがある。
業界の反撃と消費者の困惑
しかしビンポセチンには根本的な問題がある。キョウチクトウ科の植物ヒメツルニチニチソウの抽出物として販売されてきたが、実はこの植物に含まれるアルカロイドに人の手を加えた合成品だ。つまり天然由来の成分ではないから、サプリには使えない。FDAは届け出を受けた時点でこの事実に気付くべきだったが、何もしなかった。
15年10月、ハーバード大学医学大学院とミシシッピ大学の研究チームが学術誌ドラッグ・テスティング・アンド・アナリシスに論文を寄せ、健康食品チェーンのGNCなどで販売されたビンポセチン含有商品23種類を調査したところ、成分表に多くの誤りが見られたと報告した。ビンポセチンを天然成分とする表示もあった。
「そもそもビンポセチンをサプリメントに入れて販売すること自体が許されない」と言うのは、非営利団体「公益科学センター」のデービッド・シャルド上級栄養士だ。「この論文でFDAのいい加減さも明らかになった」