認知症の改善効果をうたう健康サプリにご用心
サプリ業界が急成長したのは、クリントン政権下で「栄養補助食品健康教育法(DSHEA)」が成立した94年以降だ。この法律によって、医薬品に求められる大規模な臨床試験やFDAの認可なしでサプリメントを販売できるようになった。
当時のFDAは未認可医薬品の摘発を強化し、派手な強制捜査を行っていた。そうした流れのなかでDSHEAができ、俳優のメル・ギブソンが連邦政府の調査官に「ビタミン剤」を押収される広告まで制作された。当時のビル・クリントン大統領によれば、この法律はサプリメント規制に関する「良識的」な解決策だった。
20人だけで虚偽広告を監視
FDAによると、現在アメリカにおけるサプリ市場は年間370億ドル規模と推定され、流通しているサプリの種類はDSHEA成立当時の約4000から8万に増加した。法律の施行後、業界は政治力も付けた。「民意を反映する政治センター」の調べでは、これまでに政治家や関係省庁へのロビー活動に4400万ドル以上を注ぎ込み、選挙関連の献金額も2500万ドルに迫る(大統領選のあった16年だけで920万ドル)。
業界は政府への影響力を増し、サプリのリスクや副作用についての情報をラベルに入れるよう求める声を抑え込んでいる。業界内には大きなコネを持つリーダーもいる。例えばダニエル・ファブリカント。FDAのサプリメント部門の元責任者だが、現在は業界団体トップのナチュラル・プロダクツ協会のCEOだ。
しかも、サプリの虚偽広告を監視する米連邦取引委員会(FTC)には担当者が20人しかいない。「私はいつも『市場で売られているからといって効くと思うな』と言っているのだが」と、FTC広告局のリック・クリーランドは言う。「広告があまりに多過ぎて、現在の体制では全部に目を通すことなど不可能だ」
FTCが法廷に持ち込んだケースもあるが、消費者の保護にはあまり結び付いていない。
15年、FTCは15年分の記憶が30日でよみがえると称してビンポセチン配合のサプリメント「プロセラAVH」を販売していた業者から、140万ドルの民事制裁金を勝ち取った。もっとも、その頃までにプロセラの売り上げは1億ドル近くに達していたとされる。ちなみにプロセラは今も販売されているが、製造元のキービュー・ラボラトリーズ(フロリダ州)によれば、販売手法も経営陣も一新したという。