最新記事

女性問題

エジプトで自由を求め続ける86歳の女闘士

2018年7月4日(水)17時00分
オーランド・クロウクロフト

しかしサーダウィに憎しみを募らせる一派はほかにもいた。91年に彼女の名はイスラム過激派の暗殺リストに加えられた。それは、ただの脅しではなかった。92年にはエジプト人作家ファラジ・フォダが殺された。暗殺リストにはフォダの次にサーダウィの名が挙がっていた。

93年、彼女はやむなく故国を後にし、96年に帰国するまで3年間アメリカで亡命生活を送る。

ノースカロライナ州のデューク大学で教壇に立ったサーダウィは、創造性と抵抗についての講義を始めるに当たり、自分にはどちらも教えられないと言って学生たちを驚かせた。「これまでの教育の呪縛を解くことは、私にはできないと彼らに言った。なぜ自分たちが抑圧されているのか、歴史に由来するその要因に人々は全く無自覚だ、と」

それでも彼女は必死で呪縛を解こうとした。まずは宗教の呪縛だ。「(エジプトでは)宗教は資本主義とも、女性の権利とも結び付いていると、私は指摘した。そのため彼らは私の活動を妨害し、投獄し、私の作品を検閲しなければならなかった」

何より、宗教は「ばかげている。キリストが墓から出て昇天しただの、はりつけにされただの」と、サーダウィは笑う。「私は10年かけて旧約聖書と新約聖書とコーランを比較し、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教を研究した。インドへも行ってヒンドゥー教も研究した。調べれば調べるほど宗教は奇妙なものに思えてくる」

egypt02.jpg

昨年からサーダウィの先見の明を裏付けるかのように世界中で#MeToo旋風が Ronen Tivony-Nurphoto/GETTY IMAGES

アメリカ亡命中にビル・クリントンが大統領に就任、その後ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマが続いた。16年の大統領選ではヒラリー・クリントンがドナルド・トランプと接戦を展開。サーダウィはアメリカ初の女性大統領誕生の可能性について意見を求められたが、それ自体が彼女のフェミニズムを根本的に誤解している証拠だ。

女性が統治者になることを望むかどうかは「場合による」という。「私は生殖器で人を分けないから。男か女かは関係ない。女性を抑圧することに反対するフェミニストの男性もいれば、ヒラリーやテリーザ・メイ(英首相)、コンドリーザ・ライス(元米国務長官)のように男以上に父権的な女性もいる」

11年にサーダウィも参加した革命がムバラク政権を打倒。その後の選挙でムスリム同胞団が勝利してモルシ政権が誕生したが、軍によって倒された。

サーダウィもエジプトの多くの左派同様、13年7月の軍によるモルシ政権打倒を歓迎し、クーデターという呼び方に反対している。「私はクーデターとは言わない。欧米はムスリム同胞団を排除したクーデターだと言うが、真実ではない。あれは民衆による革命だった」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中