最新記事

女性問題

エジプトで自由を求め続ける86歳の女闘士

2018年7月4日(水)17時00分
オーランド・クロウクロフト

だがアブデル・ファタハ・アル・シシ将軍が権力を掌握して4年たった今、エジプトでは大規模な人権弾圧が行われ、11年の革命に加わったリベラル派や作家、ムスリム同胞団メンバーなど大勢の活動家が獄中にある。今年3月の大統領選では有力な対立候補は出馬禁止になるか投獄され、シシが得票率97%で再選を果たした。

#MeTooは「今頃?」

それでもエジプト政府を支持するのか。「私はどんな政府も支持しない」と、サーダウィは言う。「本当に民衆のために働く政府なんてエジプトにもアメリカにも存在しない。私は個々の統治者を信じない。王も(マーガレット・)サッチャーもムバラクもシシもサダトも。民衆を1人の人間が統治するなんて無理。民衆による革命が必要」

エジプトでは女性器切除は違法だが、WHO(世界保健機関)によれば15~49歳の女性の87.2%が経験している。サーダウィは今も国内メディアでこの問題を論じることを禁じられているが、政府系のアハラーム紙にコラムを執筆している。「進歩はしている。サダトやムバラクの時代には検閲された」

エジプト以外でも明るい兆しが見えるという。その筆頭格が、17年10月のハリウッドでのセクハラ告発に端を発する「#MeToo(私も)」運動だ。「私の半分の年齢の女性たちが、私が40年前に気付いたことに気付いた。私は当時、父権制を階級や資本主義や宗教や人種差別と結び付けていた。#MeTooが起きて『今頃?』と言った」

長年「抑圧や差別に苦しんでいるのはアラブ社会やイスラム社会の女性だけで、アメリカやイギリスの女性は自由だと考えられていた。私は『いいえ、女性はみんな苦しんでいる』と言い続けた。50年代半ばにね。笑われた」。

話しながらサーダウィは紙切れに重要な単語を書き出して下線を引き、自分の主張を図にする。今後について尋ねると、彼女は紙切れを裏返して山あり谷ありの線を引く。歴史はそうやって浮き沈みしつつも常に前進しているのだという。

「今はここ」と、サーダウィは下降線の途中に印を付ける。「だからトランプやメイがいる。今は強烈な資本主義と強烈な宗教原理主義の組み合わせと人種差別の時代──パレスチナの人々があんなふうに殺されて。苦難の時代だけれど、いつか終わる。歴史とはそういうもの」

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

[2018年7月 3日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中