米朝会談「アメリカは高潔・聡明、敵はクレイジー」外交のツケ
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<トランプ、金正恩、日本、中国、北朝鮮国民――世紀の米朝会談で誰が得をしたのか、何が変わるのか。会談結果から読み解く今後の展望を検証した本誌6/26号特集「米朝会談の勝者」より。そもそもアメリカの外交政策には以前から「世界観」に問題があったと、ハーバード大学ケネディ行政大学院のスティーブン・ウォルト教授は言う>
史上初の米朝首脳会談は芝居がかった場面ばかりで、中身はほとんどなかった。自称「交渉の達人」がこのようなディール(取引)を繰り返すなら、平壌にトランプ・タワーが建つ前に、ホノルルに金正恩(キム・ジョンウン)ヒルトンがオープンするだろう。
今回の首脳会談がもたらした最大の前進は、金正恩・朝鮮労働党委員長が自らのイメージを変えたことだ。謎めいていて、どこかコミカルで、残忍で非理性的な「隠者王国」の指導者から、国際社会と真剣に向き合おうと振る舞う指導者へと衣替えした。
ニューヨーク・タイムズ紙は首脳会談の数日前に、「金正恩のイメチェン──核兵器のマッドマンから有能なリーダーへ」という見出しを掲げた。しかし記事の主役は金というより、外交上の敵を非理性的でクレイジーな愚か者と見なすアメリカの自滅的な傾向についてだった。
アメリカでは経験豊富な政府高官や聡明な専門家でさえ、外交摩擦を利害の対立や政治的価値観の衝突として理解するのではなく、個人の欠点や被害妄想、現実に対するゆがんだ見方を反映していると捉えたがる。
しかし実際の金一族は、狂気的でも非理性的でもない。困難な状況下で70年にわたって権力を維持してきた政治家集団だ。
歴史を振り返れば、アメリカは数々の敵をクレイジーと見なしてきた。ロシア革命を推進したボリシェビキのイデオロギーは、「人間が考え得る最もおぞましくて醜いこと」。60年代の中国は、「世界観も人生観も非現実的な指導者が率いる」「暴力的で、短気で、頑固で、敵意に満ちた国」だった。
イラク侵攻は、サダム・フセインは侵略を繰り返す理性のない独裁者だという理由で正当化された。同じようにイランの指導者を「大量虐殺マニア」と見なし、「殉教に取りつかれた非西洋文化」を持つイランの脅威を未然に阻止するためには予防戦争も辞さない、という理論になる。
国際テロリストについても多くのアメリカ人が、精神的に錯乱して非理性的な狂気に駆られた個人と考えている。しかし、大多数のテロリストには政治的な動機があり、それなりの理性を持って主体的に行動している。たとえ自爆テロだとしても、それが自分たちの政治目的を実現する可能性が最も高い戦略だと信じている。
中には、架空の信念で突っ走る一匹狼の攻撃者もいるかもしれない。しかし、テロ集団やその指導者をひとまとめにクレイジーだと片付けることは、彼らの根強さと戦略的行為と適応力を軽視することになる。
【参考記事】歴史で読み解く米朝交渉