最新記事

犯罪

ブラジルで急増する貨物強盗 アマゾンのEC展開にもブレーキかけるか

2018年6月6日(水)11時00分

1つの大陸並みに広大なブラジルでは、貧弱なインフラと高い税金、煩雑な官僚機構によって、かねてより貨物輸送コストは割高だった。貨物強盗の多発によって、その状況は悪化の一途をたどっている。

この厳しい環境は、アマゾン・ドット・コムにとっても試金石となる。この世界最大のオンライン小売会社はブラジルで電子書籍やデジタルムービーを中心とする販売事業を約6年続けた後に、大規模な事業拡大へと大きく舵を切った。

アマゾンは自社戦略を語ることを拒んでいるが、小売業界の重鎮らは、アマゾンも注意を怠らない方がいいと警告する。

ブラジルは「他国で成功した企業にとって、非常に異なる現実を突きつける」と、マガジンルイザのフレデリコ・トラジェーノ最高経営責任者(CEO)は、4月の公開イベントで語った。

多人数、重武装による襲撃

3月のある週末、ブラスプレスの警護センターは午後2時ごろ、その連絡を受けた。リオデジャネイロ北部の交通の激しい幹線道路で、衣料品を運んでいたトラックが窃盗団によって停車させられた、と同社警備員が、現場から無線で支援を求めてきた。

「トラックを妨害された」──。ブラスプレスがロイターに提供した録音記録の中で、警備員はそう叫んでいた。「2台の乗用車が行く手を阻んでいる。彼らは重武装だ」

マーリン氏のチームは遠隔操作でトラックのエンジン点火装置を切り、窃盗団は逃走した。運転手と2人の警備員は無事だった。

だが戦いは決して終らない、と語るマーリン氏。55歳の頑健な同氏は、サンパウロの治安の悪い地域パトロールからキャリアをスタートした。彼の警備センターで行われた取材の最中にも、違うトラックからリオデジャネイロ州で襲撃が発生したとの連絡が入った。

ブラジルの貨物強盗は今年、過去最悪を更新する勢いで増加している。同国南東部の道路は、こうした強盗事件の多発を理由に、保険業界が5月発表した「世界で最も危険な道路」ランキングで第8位に選ばれた。これは、戦争で荒廃したイラクよりも危険度が高い。

強盗事件の増加は組織的な犯罪集団に原因があると物流や小売業界の幹部は指摘する。特に問題なのがリオデジャネイロ州で、麻薬犯罪組織の摘発のために軍が介入したが、無法状態に歯止めをかけるという点では、ほとんど役に立たなかったという。

リオデジャネイロ州で恐れられている麻薬犯罪組織「レッド・コマンド」は、警察官を買収したり、輸送情報を入手するために民間企業に内通者を潜入させたりしている。このため、かつては平凡な路上犯罪だった貨物強盗が高度化している、と物流の専門家は警戒する。

「貨物強盗は麻薬密輸と同じくらい稼ぎになる」。チリのセンコスッド傘下で、リオデジャネイロに本拠を置く食料品チェーンのプレズニックで物流部門を率いるアウレリオ・プロメッティ氏はそう語る。

同社トラックへの襲撃は2015年から2016年にかけて4倍に急増した、とプロメッティ氏は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中