最新記事

統一朝鮮 本当のリスク

朝鮮半島「統一」の経済的恩恵は大きい、ただし......

2018年5月15日(火)11時55分
アンソニー・フェンソム

北朝鮮の若くて安い労働力は大きな魅力だ(写真は穀倉地帯の黄金坪、2012年) JACKY CHEN-REUTERS


180522cover-150.jpg<韓国と北朝鮮の統一機運が高まっている。「平和の配当」により北朝鮮リスクが消えれば韓国株の上昇は必至だが――。統一朝鮮が日本の敵になるか味方になるかを検証した本誌5/22号特集「統一朝鮮 本当のリスク」より>

朝鮮半島に平和が訪れれば、韓国と北朝鮮の両方が相当な経済的恩恵を受けるだろう。もちろん、現在の韓国と北朝鮮は政治的にも社会的にも大きく異なり、経済格差も大きい。南北統一の莫大なコストを考えると、過度の楽観論は禁物だとする慎重論もある。

それでも4月27日の南北首脳会談が、朝鮮半島の平和に向けて現実的見通しを高めたのは間違いない。この結果、韓国と北朝鮮には「平和の配当」がもたらされる可能性が高い。金融市場もその恩恵を受ける領域の1つだ。

「北朝鮮リスクがあるから、韓国の株式市場は長年、アジアで最も割安だった。ほとんどの投資家のポートフォリオでも、韓国株の比率は低く抑えられてきた。だから半島の平和につながる大きな出来事は、何であれ株価に大きな影響を与える」と、日興アセットマネジメント(オーストラリア)のアジア株シニアポートフォリオマネジャーであるロバート・マンは語る。

ただし、韓国企業のコーポレート・ガバナンス(企業統治)や経営の透明性に対する懸念も、業績のわりに韓国株が安かった理由の1つだ。だが最近の財閥改革は、韓国企業に対する信頼をある程度高める役割を果たした。

「(韓国の)コーポレート・ガバナンスは改善している」と、トリムタブズ・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャーであるジャネット・ジョンストンは投資情報誌バロンズで語っている。ジョンストンは、企業の業績改善、割安な株価、そして配当の伸びを理由に、韓国株は今後も上昇するとの見方を示した。

また、通貨ウォンの下落は、韓国の輸出を後押ししてきた。12年に発効した米韓自由貿易協定(FTA)は、ドナルド・トランプ米大統領の猛批判を受けたものの、今年3月には見直し案が大筋でまとまった。国際情勢によっては上昇の幅を抑えられる可能性があるが、「市場は控えめながら、『平和の配当』を織り込み始めたようだ」と、米投資銀大手ゴールドマン・サックスは最近のリポートで指摘している。

ゴールドマンはこのリポートで、北朝鮮との平和が実現すれば、インフラ投資が拡大して建設、鉄鋼、機械関連銘柄の株価が上がるとの見方を示している。「(アメリカとの)貿易問題が解消し、長期金利の上昇懸念が払拭されれば」、地政学的要因が「より大きな役割を果たし、韓国の株価とウォンを下支えするだろう」。

米金融大手モルガン・スタンレーは、韓国と北朝鮮の経済統合の進捗によっては、韓国の株価が大幅に上昇する可能性があると指摘している。韓国の英字紙コリア・ヘラルドはモルガン・スタンレーの見方として、「市場は再び力強い上昇に転じる可能性がある。韓国総合株価指数(KOSPI)は10~15%上昇するだろう」と伝えている。

その一方で、90年に東西ドイツが統一されたとき、当初の楽観論がすぐに消えたことを、モルガン・スタンレーは指摘している。89年のベルリンの壁崩壊後、ドイツの株価は28%上昇したが、統一のコストが改めて明らかになると、たちまち下落に転じた。

【参考記事】日本が「蚊帳の外」より懸念すべき、安保環境の大変動と「蚊帳の穴」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英消費者信頼感指数、4月は23年11月以来の低水準

ビジネス

3月ショッピングセンター売上高は前年比2.8%増=

ワールド

ブラジル中銀理事ら、5月の利上げ幅「未定」発言相次

ビジネス

米国向けiPhone生産、来年にも中国からインドへ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 5
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 6
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    欧州をなじった口でインドを絶賛...バンスの頭には中…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中