最新記事

教育

全国の高校でホットワードとなった「ポートフォリオ」とは? 学力以外の主体的活動も受験評価に

2018年4月17日(火)15時00分
福島 創太(教育社会学者)※東洋経済オンラインより転載

そしてそれが学校の短期間の評価ではなく、消すことのできない生涯にわたる記録として残るとしたら、中高生の行動に及ぼす影響は決して小さくないだろう。あるいは、彼らがなんらかの取り組みを始めようとしたときの意図やそこでの取り組み、さらにはその振り返りに誰かからの評価が下ったとき、あるいは先輩の評価が後輩に知らされたとき、そしてその評価を下した人が自分自身の人生を左右するような立場にいる人だったとき、「評価されるための行動」を彼らが選んでいくことにはならないだろうか。

そもそも「キャリア・パスポート」が始まった背景には、職歴や職能を記入して就労を希望する企業に自分がどんな仕事ができるのかという職業能力を証明することやキャリア設計に用いられる「ジョブ・カード」というツールがある。このジョブ・カードは社会人や大学生が使うものだったが、より若い年代が使うツールとして再設計されたのだ。

いまの就職活動でさえ、大学生活全般から学生の活動や取り組みを評価し、時にはSNSも含めて学生の関心事や生活を読みとり、採用に生かそうとする時代である。もし「キャリア・パスポート」がいまの小中高生の生活を長く記録できたとき、それが採用のシーンで使われる可能性も往々にしてある。

つまり、「ポートフォリオ重視」の考え方は、学力偏重の価値観を壊していくかもしれないが、一歩間違えば新しい模範を作っていくことになるのだ。そしてそれはこれまでの模範より一層全人格的で逃げ道のない模範となる。

そんなことは誰も望まないだろう。なぜなら教育制度改革の大前提には、正解のない時代を生き抜ける若者の育成や産業にイノベーションを起こせる人材の創出、主体性や創造性を誰しもが育める制度設計が目標として掲げられているからだ。

海外で広がり始めた「ノーレイティング」

一方、海外に目を向けると「ポートフォリオ重視」とは異なる流れが最近では生まれている。マイクロソフトやGE、アクセンチュアといった一部のグローバルカンパニーでは「ノーレイティング」という考え方を採用。これは、リアルタイムでの目標設定とそれにひも付くフィードバックによって従業員のパフォーマンスを高め、年次での評価やランク付けを廃止するという取り組みだ(実施方法は企業ごとに異なる部分もあるが)。この考え方は2015年、フォーチュン500社の10%で導入された。

「ノーレイティング」の目的は、年次評価を気にすることで従業員が失敗や間違いをおそれ萎縮し、チャレンジしなくなることを避けることだ。また、評価基準の多様化も重要なポイントである。一律の基準や軸をもうけてランク付けをすると、どうしても特殊な技能や専門性、あるいは長期的な成果を目指す取り組みが評価されづらくなる。しかし、変化の激しい時代においては組織のダイバーシティ維持は非常に重要な課題となる。そのとき、各従業員との対話の中から彼らを評価すべきポイントを取り出し、評価しパフォーマンスを高めることができれば多様かつ強い組織が生まれていくだろう。

この「ノーレイティング」の考え方と、「ポートフォリオ」や「キャリア・パスポート」の考え方は逆行しているように思える。

大切なことは、「なにのために評価するのか」さらに言えば「誰のために評価するのか」ということなのである。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

石破首相、トランプ氏との電話会談を模索 米関税巡り

ビジネス

焦点:関税の次は金融か、トランプ氏の次の一手に戦々

ビジネス

英建設業PMI、3月46.4 土木が不振

ビジネス

英BPルンド会長、26年退任か エリオットは株主と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描かれていた?
  • 2
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 5
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 6
    得意げに発表した相互関税はトランプのオウンゴール…
  • 7
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世…
  • 8
    「ネイティブ並み」は目指す必要なし? グローバル…
  • 9
    テスラが陥った深刻な販売不振...積極プロモも空振り…
  • 10
    アメリカから言論の自由が消える...トランプ「思想狩…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中