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北朝鮮

凍てつく辺境の地、記者が旅した中国=北朝鮮の国境地帯

2018年4月29日(日)15時25分

4月12日、中国と北朝鮮の国境地帯にある高いビルの屋上に据えられた双眼鏡を覗くと、向こう側からゆっくりと2人の女性が橋を渡ってくるのが見える。2017年11月撮影(2018年 ロイター/Damir Sagolj)

高いビルの屋上に据えられた双眼鏡を覗くと、向こう側からゆっくりと2人の女性が橋を渡ってくるのが見える。サビの目立つ双眼鏡は軍用タイプで、まるで攻撃すべき標的を見ているように思えてくる。

ひどい寒さのため、写真を撮るためにそこにカメラのレンズを押し当てるのも一苦労だ。

ここは中国と北朝鮮の国境地帯だ。同僚のスーリン・ウォン記者との1週間に及ぶ取材旅行では、現地における極貧の日常生活から違法経済活動まで、これまで外国メディアが目撃していない場面を垣間見ることができた。

同じビルの屋上では、手をつないだ2人の観光客も女性たちを眺めていた。彼らは自撮り棒を取り出し、国境を背景に記念撮影をした。まもなく、あまりの寒さに観光をあきらめてしまったようだ。同僚記者と私は屋上に留まっていたが、やがてカメラを構える手がすっかり凍えてしまった。ようやく私たちも下に降りた。

あたりは、まもなく暗くなる。橋の向こうに見える明かりは、北朝鮮指導者たちの肖像を照らすライトだけだった。中国側の塔の下では、非常にリラックスした様子の国境警備兵が、ふざけながら互いをビデオカメラで撮影していた。橋を渡ってきた女性たちの跡を追うべきだったが、どちらに向かったのか分からなかった。私たちはその代わりに、この街で最高の焼肉レストランを探しに向かった。

国境地帯には馴染みがある。私は自分の人生のかなりの部分、そしてキャリアのほとんどを、国と国のあいだ、戦争と平和のあいだ、「私たちと彼ら」のあいだで過ごしてきた。

イランとアフガニスタンのあいだに横たわる砂漠や、旧ソ連内の大使館のゲート、血なまぐさいバルカン紛争における包囲された都市の最前線──。どの場所にも共通することがある。どちら側から見るかによって、まるで違う顔が見える、ということだ。

その極端な例が北朝鮮の国境だ。南北朝鮮を隔てる河川やフェンスの両側で、これほど生活が異なる状況は、世界のどこを探しても他にない。そう言えるのは、私が国境の両側から眺めた経験があるからだ。

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