米中貿易戦争は中国に不利。習近平もそれを知っているので最悪の事態にはならない
しかし、このカードもそう強くない。確かに、特定の米企業の輸出を妨げれば、それなりのダメージを与えられる。例えば、ボーイングは大打撃を受けるだろう。部品調達先や株主もだ。それでも、アメリカ経済全体に影響を与える力は限られていると、一部のアナリストはみる。大豆の生産者は痛手を受けても、恐慌が起きるほどではないということだ。
一方、中国経済は輸出に大きく依存しているため、貿易戦争になれば、アメリカ以上に痛手を受ける。「中国の報復により、アメリカやその他の国々が輸入制限を行うようになれば、中国は非常に大きなリスクにさらされる」と、ペティスは言う。「輸出不振で貿易黒字が縮小すれば、中国は国の借金を増やすか、失業率の上昇を許すかしかなくなる」
選挙で選ばれるわけではない中国の指導者は、有権者の意向を気にする必要はない。それでも国民の不満が噴出すれば、政権存続は危うくなる。習は米中貿易戦争という名のチキンゲームに加わるわけには行かないのだ。市場が歓迎した冷静な対応の裏には、そんな事情があった。
米中双方の「大人の事情」を考えると、世界経済を脅かす米中貿易戦争の亡霊が消えてなくなるのは時間の問題かもしれない。
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