最新記事

米中関係

米中貿易戦争は中国に不利。習近平もそれを知っているので最悪の事態にはならない

2018年4月19日(木)18時00分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

その黒字はとうに消え、ペティスによれば、今やアメリカは世界経済の「緩衝材」となっている。経済規模が大きく、活発な資本市場があるアメリカには、世界の余剰資金のざっと半分が流入しているのだ。

入ってきたカネはどこかに行かなければならない。流入した外資の一部は不動産と証券市場に流れ込む。その結果アメリカ人は金持ち気分になり、派手に輸入品に散財する。そのために貿易赤字がどんどん膨らんでいるというのだ。

これに対しては2つの対応が考えられる。1つは、外国製品がアメリカ製品から市場を奪い、その結果アメリカ人の失業率が上昇するにまかせること。だが、これは政治的にまずい。もう1つは、財政支出を拡大して失業率を低く保つこと。こちらも、財政赤字が嫌いなトランプ政権としてはノーだろう。

では、トランプが提案する関税引き上げは赤字解消に役立つのか。根本的な解決ではないので答えはノーだ。それでもトランプは、中国製品に懲罰的な関税を課した。

中国の脅しはハッタリ

中国からも同じ程度の報復が返ってくるのは避けられないと、誰もが思った。そうなれば、アメリカ経済だけでなく世界経済に深刻な被害が及ぶだろう。

だが習は慎重だった。一部アメリカ製品に課した輸入関税はトランプよりはるかに小規模にとどまった。一方で、市場開放を提案した。中国が使えるカードには限りがあるのだ。1つは米国債の購入をやめること。大統領選中、民主党候補のヒラリー・クリントンは、それが怖いからアメリカは中国に対して強く出られないのだと説明していた。

とはいえ中国がこのカードを使うことはまずあり得ない。中国は今、貿易で儲けたドルで米国債を買っているが、もし米国債を買うのをやめてドルを中国に持ち帰るとすれば、ドルを売って人民元を買わなければならなくなる。そうなれば人民元の相場が大幅に上昇し、輸出産業に大打撃を与えかねない。ペティスが言うように、米国債を売るという「中国の脅しは、ハッタリに過ぎない」。

習の強みは1つ、有権者の意向を気にする必要がないことだ。トランプのほうはそうは行かない。彼の支持者の多くは、中国がアメリカの農産物やボーイングの航空機に報復関税をかければ、経済が大きな痛手を受ける州に住んでいる。その点では、中国はトランプに脅しをかけ、譲歩を期待できる立場にある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スウェーデン、バルト海の通信ケーブル破壊の疑いで捜

ワールド

トランプ減税抜きの予算決議案、米上院が未明に可決

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、2月50.2で変わらず 需要低

ビジネス

英企業、人件費増にらみ雇用削減加速 輸出受注1年ぶ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 9
    ハマス奇襲以来でイスラエルの最も悲痛な日── 拉致さ…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中