最新記事

戦争の物語

歴史問題はなぜ解決しないか(コロンビア大学特別講義・前編)

2018年3月13日(火)17時05分
ニューズウィーク日本版編集部

magSR180313main1-3.jpg

ミシェル(アメリカ人)「個人の記憶が歴史を反映することはあるだろう。とはいえ、記憶が呼び起こす感情は必ずしも真実ではないかもしれない」 Photograph by Q. Sakamaki for Newsweek Japan

【グラック教授】 なるほど。東京大学に留学していて、そこで聞いたのですね。次は?

【ユカ】 (「日本の外交上の失態」というのは)日本の小説から来ました。山崎豊子の『二つの祖国』(新潮社、83年)です。

【グラック教授】 テレビ(同書が原作のNHKの大河ドラマ『山河燃ゆ』、84年)も見たことがありますか?

【ユカ】 いいえ......。

【グラック教授】 あなたは若過ぎますよね(笑)。私はあのドラマを見ていました。二つの祖国というのは、日本とアメリカのことです。あれは日系アメリカ人について取り上げた最初で最後の大河ドラマだと言われています。あまりヒットしなかったので(笑)。

次は、「アメリカの英雄主義」と答えたディラン?

【ディラン】 私の印象は、2つの大きな情報源から来ています。1つ目は、FDR(フランクリン・ルーズベルト大統領)の大ファンである祖母です。彼女はまだ生きていますが、ルーズベルト政権下で育ったので、ルーズベルトがどうパールハーバーに対処したかについて話してくれたり、あんなにひどい出来事が起きたのに大統領はとても勇敢だったと、FDRの対応を高く評価していました。もう1つの発想は、中学校の歴史の授業です。その時代の出来事について何をどう習ったのかは覚えてないのですが、映画を見たことを覚えています。兵士たちがどう対応したかを、ポジティブな印象で描いた映画でした。

【グラック教授】 習った内容は覚えていないけれど映画は覚えているのですね。

【ディラン】 はい。ただ、兵士たちについてのイメージはぼんやりとあります。

【グラック教授】 分かりました。ぼんやりと、ですね。家族の話であり、イメージ的な話でもあるということですね。では次、「日本人として謝らなければならないこと」とは?

【トモコ】 小学校や中学校で学んだことは確かなのですが、その頃、私は「真珠湾攻撃」という言葉にそれほど関心を払っていませんでした。歴史の中の1つの事実、というくらいの認識です。でも私は今、広島の被爆者のオーラルヒストリーを集めていて、アメリカに来た2人の被爆者が真珠湾攻撃に対する謝罪から口火を切る場面に出くわしました。彼らに理由を尋ねると、アメリカ人に自分たちの話を聞いてもらうために期待されていることだから、という答えが返ってきました。それで私も、謝るということが求められているのかな、と思うようになりました。

【グラック教授】 あなたは今現在、このテーマについて研究しているのですね。

【トモコ】 はい、そうです。

【グラック教授】 では次、「多くの犠牲者」とは?

【インニャン】 高校の歴史の教科書です。

【グラック教授】 アメリカの高校でしょうか?

【インニャン】 カナダの高校です。

【グラック教授】 その高校で、カナダ人の話については習いましたか。アメリカの話、パールハーバーの話以外に、戦時中のカナダ人のストーリーについてはどうでしたか。別の文脈で、など。

【インニャン】 カナダが第二次世界大戦にどう関わったか、については習いました。

【グラック教授】 分かりました。次は、「だまし討ち」とはどこから?

【スコット】 『トラ・トラ・トラ!』(70年、真珠湾攻撃を題材にした日米合作映画)などのハリウッド映画です。あとは、小さいときにテレビのヒストリーチャンネルでももう1本見ました。ヒストリーチャンネルというのは、とにかく第二次世界大戦の話ばかりです。

【一同】 (笑)

【グラック教授】 今は、「ヒトラー・チャンネル」と呼ぶ人もいますね(笑)。アメリカのヒストリーチャンネルが放映する番組の第二次世界大戦の舞台は、今でもアジアというよりヨーロッパが中心です。では次に、「アメリカの愛国心」とは?

【スペンサー】 ヒストリーチャンネルのドキュメンタリーです。でも当時は幼過ぎて、こういうことがあった、という以上のことは理解できませんでした。もう1つ、祖父の影響というのがあります。祖父は海兵隊のエンジニアをしていて、終戦間際に日本に送られました。僕がこういうドキュメンタリーを見ていると、いつも祖父と議論になります。彼は常に、「この瞬間」について話します。パールハーバーのことです。2人でいつも議論になります。

【グラック教授】 「この瞬間」が、パールハーバーだと。自分のおじいさんとは議論すべきではないと思いますが(笑)。では次、「観光地化している記念館」というのはどうして?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中