イタリア極右が総選挙前にすみ分け作戦
今回の総選挙では難民問題が最大の争点の1つとなっている。銃撃事件が起きたマチェラータでは1月末、バラバラに切断された若い白人女性の死体が発見され、事件に関与した疑いでナイジェリア人の難民申請者が逮捕された。トライーニはこのニュースを知って銃撃を決意したと、捜査官に話したという。
最近の世論調査では、イタリアの有権者の59%が移民・難民の多さに「脅威を感じている」と答えている。中道右派連合を率いるシルビオ・ベルルスコーニ元首相は穏健路線を打ち出しつつも、不法移民60万人の強制退去を公約に掲げた。
世論調査ではトライーニの凶行をある程度「許せる」と答えたイタリア人が11%にも上った。銃撃は犯罪だが、アフリカ系の人々にも問題があると答えた人も12%いた。移民排斥を掲げる政党である「同盟」(元「北部同盟」)の支持者では、31%が銃撃を許せると答えている。
こうした感情を背景に極右に対する支持はかつてないほど高まっている。前回の総選挙では得票率がわずか4%だった同盟も、最新の世論調査では支持率が14%に達した。カーサパウンドも昨年11月に行われた首都ローマ近郊のオスティアの地方選挙で過去最高の9%の票を獲得。今回の総選挙で中央政界に進出を果たす可能性もある。
同盟とカーサパウンドが支持を伸ばせたのは、イタリアの有権者が右傾化しているためでもあるが、この2党が慎重に戦略を転換したおかげでもある。同盟の指導者、44歳のマテオ・サルビーニは分離独立を目指していた北部の地方政党を国民政党に変えた。今の同盟は、フランスの極右政党「国民戦線」のイタリア版だ。
カーサパウンドは欧州のほかの極右政党やアメリカのオルト・ライトに倣って、メディア受けのいい「クールな」極右のイメージを打ち出している。
この2党とは対照的に、フォルツァ・ヌオバは幅広い支持をつかもうとはせず、超保守的な層にアピールする姿勢を貫いている。その極端な主張のおかげで、カーサパウンドや同盟が「まともな政党」のように見え、極右に抵抗がある人々にも支持されるようになった。
銃撃犯支持も戦略のうち
フォルツァ・ヌオバは非主流とみられているおかげで、同盟やカーサパウンドがもはやおおっぴらにできない危険思想も平然と打ち出せる。カーサパウンドの指導者ジャンルカ・イアンノーネはマチェラータの銃撃事件後、トライーニは「精神的に不安定な」人物で、その行為は「徹底的に糾弾」されるべきだという声明を発表した。