トランプはタフな交渉人──87年と2015年の密着取材から
自らの「ブランド」に忠実
そのとおりだ。トランプの不器用なスタイルとうぬぼれ屋なところは、昔から少しも変わっていない。
30年前のトランプは手を出すもの全てを「世界一」にしていた。世界一のゴルフコース、世界一のホテル、世界一のカジノ。本人に言わせれば『トランプ自伝──不動産王にビジネスを学ぶ』も、「史上最も素晴らしいビジネス書の部類に入る」のだった。
30年前の発言だが、今も彼はそれを信じている。計算ずくではないだろうが、彼は「トランプ」というブランドにとって大仰さが不可欠であることを理解している。
だから87年のあの日、彼がオフィスで「もし出馬すれば必ず勝つ」と宣言したとき、私たちは笑い転げた。それでこそトランプだ。
トランプが好かれる理由の1つは、彼が億万長者でありながら庶民感覚の持ち主だという点にある。これも30年前の話だが、ある晩、トランプはニューヨークのアッパー・イーストサイドにあるメトロポリタン美術館でのおしゃれなチャリティーコンサートに招かれた。だが彼は退屈した。高級シャンパンをすする上流階級のエリートたちを尻目に、わずか10分ほどで会場を抜け出すとミッドタウンのトランプ・タワーにある自宅に戻り、ポップコーンを頬張り、テレビのフットボール中継に見入ったのだった。
もう1つ、笑い飛ばしてもいいが無視はできない特徴が、トランプにはある。タフな交渉人のイメージだ。彼はこの点も執拗に強調する。自分ならば、アメリカのためにずっとベターな「取引」をまとめてみせると。
選挙用の大風呂敷か? 確かに。だがトランプ陣営が主張するように、彼はニューヨークの不動産業界やアトランティックシティーのカジノ業界で鍛えられてきた。どちらもタフな業界だし、トランプも彼の仲間も手ごわい。
30年前の取材中、私はトランプや彼の部下が取引相手と汚い言葉でやり合うところを何度も目撃している。トランプ傘下の企業が発行したジャンク債で大損した投資銀行の人間とトランプが、電話会議で怒鳴り合う場面にも居合わせた。
トランプのある友人は彼を「すね蹴りと金玉蹴りが得意な実業家。6時に仕事を終えてカクテルを楽しむタイプじゃない」と評した。交渉ではジョン・ケリー国務長官より自分のほうが上だ、とトランプは言ったが、それはおそらく間違いではない。
だが現実には、トランプが共和党の指名を受ける可能性がある、いや挑戦する資格があると思う人はほとんどいない。世論調査での彼の評価は高まるばかりだが、それは単に彼の名前が有名だからだと私は思っていた。有権者は最終的に、信頼できる候補者は誰かを見極めるはずだと。
だがしばらく彼と共に過ごし、彼のスタッフと話した後では、それほど確信を持てなくなった。1つには選挙アドバイザーだったストーンから、トランプ陣営が選挙の序盤で重要になる州で、極めて信頼できる運動員を雇ったと聞いたからだ。それはトランプが、自分のブランドを拡大するための愉快で賢い手段として、選挙を利用しているわけではないことを意味する。