トランプはタフな交渉人──87年と2015年の密着取材から
テレビ番組が作ったイメージ
さらに、ストーンによれば政治における「アプレンティス」効果が存在する。トランプがホストを務めたリアリティー番組『アプレンティス』は14シーズンにわたって人気を博した。視聴者が目にしたのは、青いスーツに赤いネクタイを締め、大統領然として高級な椅子に座る男だ。この男は主導権を握り、決定を下す。思慮深くも見え、ほんの数秒ほど思案してから宣告を下す。「おまえはクビだ!」
この番組は「ドナルドのイメージを永遠に変えた」と、ストーンは言う。この言葉に、私は少々まごついた。「ちょっと待ってくれ。彼が何秒か思案してみせたから、多くの人が彼は大統領にふさわしいと信ずるようになった。そういうことか?」
「そうだ」
「しかし、あれはテレビ番組だ。現実じゃない。ドナルドは物を知らな過ぎて大統領にはなれないと批判されている。彼は全くのでたらめを言う。例えば、ウィスコンシン州のスコット・ウォーカー知事の経歴に関するトランプの説明は、何から何まで間違っていた」。正しいことを知らないだけではなく、トランプは自分が知らないということも知らないのではないか?
ストーンはため息をついた。「いいかい、ここは大局的な見方が必要だ。彼は自分が何をしたいか知っている。人を導く方法も知っている」
私にはまだ疑問があった。出馬の理由だ。普通、69歳で何十億ドルもの貯金があったら大統領選に出ようなどと思わない。トランプは本気なのか。大統領職は激務だし、長い選挙戦では過去の破産や訴訟沙汰など、思い出したくもないことが必ず暴かれる。
取材でトランプに直接質問をぶつけると簡潔な答えが返ってきた。アメリカは「どんどん落ちている。それが許せない。政治屋にもうんざりだ。だから出馬する。当然だ」
戸惑う私に、彼は言った。「どう思う、ビル? 私は勝てるかな?」
「正直言って」と私は答えた。「私に分かるはずがない」
トランプは笑った。「それなら、やってみれば分かるじゃないか」
※2015年9月29日号掲載の記事を再編集したもの
<ニューズウィーク日本版SPECIAL ISSUE 「丸ごと1冊 トランプ」では、トランプ政権の「等身大の姿」、ビジネスマン大統領の歩みや家族、スキャンダル、さらには「閉じる帝国」アメリカの行方を読み解く。予測不可能な型破り大統領はアメリカと世界をどこへ導くのか。この記事は「丸ごと1冊 トランプ」からの抜粋>
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