最新記事

日韓関係

慰安婦問題をこじらせる韓国の二元論

2018年2月8日(木)18時00分
ジョセフ・イ(漢陽大学准教授)

文在寅大統領夫妻は元慰安婦を官邸に招待した(1月4日) The Presidential Blue House-Yonhap-REUTERS

<「被害者の韓国」「加害者の日本」という韓国側の画一的な思考が論争の終わりを見えなくしている>

2015年12月28日、日本と韓国は第二次大戦中の「従軍慰安婦」について最終的な合意を結んだ。日本は公式に謝罪し、慰安婦支援のために10億円を拠出。韓国は慰安婦問題が解決したものと見なし、日本大使館前の慰安婦像問題についても解決に向け努力することになった。

しかしこの合意は国民に支持されず、市民団体は激しく抵抗した。その後、慰安婦像は釜山の日本総領事館前やサンフランシスコにも設置された。

18年1月4日、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、合意は「誤りであり、真実と正義の原則に反し、被害者の気持ちを反映していない」と述べた。文は合意の破棄は否定したが、日本に対して新たに「心からの謝罪」を要求した。

慰安婦問題をめぐる果てしない論争はある部分、世の中には悪人と善人しか存在しないというマニ教的二元論の考え方から生まれている。

かつて韓国では、北朝鮮はソ連の傀儡政権であり、この見方に反対するのは共産主義者だと教えられていた。現在は教育現場やメディアで、旧日本軍が約20万人の韓国人女性を拉致したのは厳然たる事実であり、これに反論するのは日本の右翼と同じという活動家の主張が優勢だ。

日本政府は90年代に慰安婦について調査を行い、植民地だった韓国や台湾から旧日本軍が女性を強制連行した証拠は見つからなかったとした。

サンフランシスコ州立大学のサラ・ソー教授と世宗大学の朴裕河(パク・ユハ)教授による著書では、女性たちが家族を養うためや横暴な親から逃げるため、あるいはブローカーにだまされたためなど、さまざまな理由から慰安所で働いたと証言している。

著者たちは、女性が慰安婦になった背景には家族や知人が絡んでおり、そのため個人によって状況は違うはずだと書いている。しかし韓国の活動家は元慰安婦に圧力をかけ、「悪い日本人と罪なき韓国人」という図式にはめ込もうとする。

メディアの姿勢にも偏り

例えば、慰安婦だったことを初めて名乗り出た金学順(キム・ハクスン)が市民団体「韓国挺身隊問題対策協議会」に語った最初の証言では、養父が彼女ともう1人の少女を連れて中国に行き、地元の慰安所で管理人をしていたという。

しかし93年に公表された証言では、養父に関する部分が削除されていた。家出して慰安婦になったという証言が後に、夜中に日本兵に連行されたと変えられたケースもある。

「拉致説」は少数の証言から広がり(90年代に元慰安婦とされた238人中16人)、その誰もが市民団体と関係していた。生存者46人のうち34人は15年の合意による日本の支援金受け入れを表明したが、メディアが主に報道したのは拒否した12人についてだった。

20年前には「アジア女性基金」を通じ日本から支援金を受け取った61人が裏切り者として非難され、日本からの援助金を(表立って)受け取れなかった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

北朝鮮のロシア産石油輸入量、国連の制限を超過 衛星

ワールド

COP29議長国、年間2500億ドルの先進国拠出を

ビジネス

米11月総合PMI2年半超ぶり高水準、次期政権の企

ビジネス

ECB幹部、EUの経済結束呼びかけ 「対トランプ」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中