「機密メモ」の公表は、ロシア疑惑に対するトランプの大きな一勝
このメモは、表面的には非常にばかげていてかつ専門的で、理屈にも合わない。だから、その点にこそ「意味」があるということを見落としてしまいがちだ。もしロシア疑惑の捜査の泥沼に足を取られてさえいなければ、メモはただの不可解でややこしくて訳の分からないものに過ぎなかった。
捜査機関への疑念を引き起こす
アメリカ人の大部分にとってこのメモは、トランプ大統領が自分の政府の情報機関のことを腐敗して自分を追い出そうとしていると言い立て、「悪者」つまりスティールや、自分の「チーム」に加わることを拒んだサリー・イェーツ元司法長官代行やアンドルー・マケーブ前FBI長官代行らを都合よく羅列したものに過ぎない。
だが、もしメモ公開の狙いがトランプについて調べることのできる捜査機関すべてへの疑念を引き起こすことであれば、目的は達せられたと言える。ジョン・マケイン上院議員はメモの公開を受けて「もしわれわれがわが国の法による統治の足を引っ張り続けるなら、われわれはプーチンの仕事を彼に成り代わってやっているようなものだ」と言ったが、まさにその通りだ。
このメモは不可解であり退屈であるゆえに2つの効果をもたらした。まずトランプ政権の失敗や異常事態を映し出すさまざまな愚行から目をそらせる効果があった。
司法副長官の解任が目的の1つか
このメモのもう1つの目的は、以前から言われている通り、トランプがロッド・ローゼンスタイン司法副長官を解任する手がかりとすることにあった。元司法省幹部のマシュー・ミラーがワシントン・ポストに書いたように、ローゼンスタイン解任は「ロバート・ムラー特別検察官の(ロシア疑惑の)捜査を大いなる危機に陥れるかも知れない」。
トランプは新たな司法副長官代行を指名することで、ムラーの捜査を妨害することができるだろう。これなら捜査を中断させて政治的な失点を被る危険もない。また、ムラー解任となれば抗議運動が起きるだろうが、ローゼンスタインの解任であれば立憲民主主義への脅威だといった反発も少なくてすむ。
私たちは今、ウォーターゲート事件を追体験させられていると言っても過言ではないだろう。アメリカで立憲民主主義への危機感が本当に高まるとすれば、それはトランプ政権の愚行を描いた点描画の1つ1つの点が、大きなうねりを引き起こすほど世論を大きく動かせるかどうかにかかっている。