米中険悪化――トランプ政権の軍事戦略で
この論説は、逆から見れば、中国がいかに「米日豪印」4カ国の同盟を怖がっているかを示すパラメーターとなり得る。
日豪接近を警戒する中国
それを証明するかのように、オーストラリアのターンブル首相が今年1月18日に訪日し、自衛隊の駐屯地を訪れたことを、CCTVは口を極めて罵倒した。親中派だったはずのターンブル首相が中国を裏切ったという気持は、中国政府だけでなく、一般の中国人の間でも強い。中国がチャイナ・マネーにものを言わせて内政干渉をしているとして、外国に政治献金を禁止したり、反スパイ法を新たに制定したりなどしたからだ。
特に昨年の12月9日、ターンブル首相は、1949年10月1日に毛沢東が中華人民共和国誕生に当たって「中国人民は遂に立ち上がった!」と言ったのをもじって、「オーストラリア人は遂に立ち上がった!」などと中国語で言ったため、中国のネットは燃え上がった。たとえば「新浪」など、多くのウェブサイトも、ターンブル首相の発言を掲載して、中国の対豪感情は最悪になっている。
ターンブル首相は移民問題でトランプ大統領の激怒をも買っているので、日本に近づく以外にない。
そこで中国としては、「米日豪印」から成る「インド太平洋戦略」を切り崩すため、「日本に近づく戦略」に、突如、出始めているのである。
日本はもっと戦略的であるべき
安倍首相は国会の施政方針演説で、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を、中国主導の「一帯一路」構想と連携させる形で推進する意向を表明した。*(注)
本来安倍首相は、中国を牽制するために、オバマ大統領が2015年に提議した「インド太平洋戦略」を推進することにしていたはずだ。それは非常に賢明な選択で、筆者は高く評価していた。トランプ政権が19日に発表した「2018アメリカ国防戦略報告」概要に中国が激しい抗議を示しているのも、この戦略があるからだ。
だというのに、習近平国家主席の訪日を実現したいあまり、ここに来て「一帯一路」への協力を申し出るのは、如何なものか。おまけに対中牽制となり得るインド太平洋戦略を一帯一路構想と連携させたのでは、元も子もない。中国を喜ばせるだけだ。
これでは、1月25日付のコラム「あのランディがトランプ政権アジア担当要職に――対中戦略が変わる」に書いたように、せっかくトランプ大統領がランディを任命して国防戦略を練らせても、何にもならないではないか。中国にうまいこと利用されるのは明白ではないか。
ターンブル首相が中国の影響力を削ぐために外国からの政治献金を禁止したのは、他でもない、一帯一路構想に巻き込まれて、北部ダーウィン港を中国企業に99年間貸与する契約が2015年決まってしまったからだ。字数が多くなり過ぎたので詳述は避けるが、ターンブル首相の判断は正しい。世界に一人でも、このようなリーダーが現れたことは非常に貴重だ。
1992年に、日本の領土である尖閣諸島を中国の領土とした領海法を中国が制定したというのに、日本は抗議しないばかりか、天皇陛下の訪中により、天安門事件後の西側諸国の対中経済封鎖を解除させてしまい、こんにちの中国の経済発展を可能にしてしまった。それがこんにちの中国の横暴な振舞を招いている。このことに対する反省は、日本にはないのか。このような愚を繰り返すべきではない。
日本はもっと戦略的であるべきだ。大局を見失わないでほしいと強く望む。
*(注)正確に言えば、施政方針演説では「『自由で開かれたインド太平洋戦略』を推し進めます。この大きな方向性の下で、中国とも協力して、増大するアジアのインフラ需要に応えていきます」と言っている。この前提には昨年12月17日に表明した「インド太平洋戦略を中国主導の一帯一路と連携させる形で推進する」という安倍首相の意向がある。昨年9月14日には安倍首相は、中国との間で国境紛争が絶えないインドのモディ首相との会談で、「インド太平洋戦略」を中国の不透明で排他的な開発姿勢に対抗する「対中牽制戦略」と位置づけることを確認し合った。その3カ月後には、同戦略を対中牽制から中国との共存共栄へと転換してしまったのである。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。