最新記事

アメリカ経済

アメリカは労働者不足? いや、実は雇用者不足

2018年1月29日(月)16時40分
ジョーダン・ワイスマン

製造業や建設業では求人を出しても採用したい人材が来ないという声が聞こえる(デンバーの建設現場) Rick Wilking-REUTERS

<技能を持った労働者が足りないと言われるが問題はスキルに見合った賃金を払わない企業にある>

アメリカの労働者は技能が不足しているという指摘が後を絶たない。業界紙には例年、求人を出しても欲しい人材が来ないという経営陣の嘆きが載っている。その中心は、大卒の学歴が必要ない製造業や建設業などの「中位技術職」だ。

08年の経済危機直後から3~4年、アメリカの高い失業率が解消されない本当の原因は、米経済に打撃を与えた不動産バブルの崩壊と金融危機の影響の余波ではなく、必要とされる技能を労働者が持っていないせいだとする説が根強かった。

この説が的を射ていないことは、ごく一部の業界を除いて、賃金がほぼ横ばいであることから分かる。優れた人材が本当に不足しているなら、企業は競って技能に高い給料を払おうとするだろう。しかし雇用者は、いい人材が見つからないとこぼす一方で賃上げをずっと先送りにしてきた。

経済危機後の数年間、アメリカの労働市場は大きく縮小し、業界や地域によっては求人広告を出す企業が実に限られていた。この傾向が賃金を押し下げたようだ。ある研究によれば、労働市場が小さくなるほど賃金が下がる傾向にあった。

これは雇用者にとって、労働市場が「買い手独占」の状態になっていることの表れだ。他社との雇用競争がほとんどないため、企業は賃金を低く設定しても全く困らない。

買い手独占が問題になる要因は多い。見過ごされがちなものの1つは、雇用者間に競争がないと実際の雇用減少につながる一方、労働力が不足しているという錯覚を生むことだ。

健全な競争がある労働市場なら、労働者は雇用者にもたらす付加価値に基づいて賃金を支払われるはずだ。労働者がエンジン部品を取り付けて1時間に25ドルの収益を雇用者にもたらしていれば、彼は1時間にそれに見合う報酬を受け取っているべきだ。そうしないと、他の自動車工場が労働に見合う報酬を提示して引き抜く。

人件費削減のほうを重視

しかし、労働市場に競争力が働いていない場合はそうはいかない。企業は労働者の価値に見合った給料を支払わないほうが儲かると思うかもしれない。

経営者には2つの選択肢がある。1つは高賃金の求人広告を出す(今いる従業員の賃金も引き上げる羽目になる)。もう1つは低賃金で求人を続ける(応募がない事態もあり得る)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザでジャーナリスト5人死亡、イスラエルは戦闘員標

ビジネス

NY外為市場=ドル一時158円台、5カ月ぶり高値

ワールド

レバノン、シリア暫定政府と善隣関係を期待

ワールド

プーチン氏、スロバキア主催のウクライナ和平交渉の可
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 2
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3個分の軍艦島での「荒くれた心身を癒す」スナックに遊郭も
  • 3
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部の燃料施設で「大爆発」 ウクライナが「大規模ドローン攻撃」展開
  • 4
    「とても残念」な日本...クリスマスツリーに「星」を…
  • 5
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 6
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 7
    日本企業の国内軽視が招いた1人当たりGDPの凋落
  • 8
    滑走路でロシアの戦闘機「Su-30」が大炎上...走り去…
  • 9
    なぜ「大腸がん」が若年層で増加しているのか...「健…
  • 10
    世界がまだ知らない注目の中国軍人・張又俠...粛清を…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 4
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 5
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 6
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 7
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 8
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中