最新記事

中国

バンクーバー外相会議に中国強烈な不満

2018年1月18日(木)19時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

米中蜜月から米中対立へ移行するか

トランプ政権誕生以来、習近平国家主席としては、最大限の賛辞と友好を以て、トランプ大統領を熱烈歓迎してきたつもりだろう。

そのトランプ政権が、こともあろうに中国をロシアとともに除け者にして、朝鮮戦争時代の「共産圏」対「自由主義圏」という構図で、一つのグループを作ったことが、習近平氏には、きっと耐えられないほどの屈辱に映ったにちがいない。

中国外交部の報道官は、憤怒に満ちた表情と激しい語調で以下のような主旨のことを定例記者会見で語った。

――当時の国連軍参加国の名義で会議を招集するなどということは、まさに冷戦時代の考え方である。朝鮮半島非核化問題に関わる重要な国(筆者注:中国とロシア)が参加しない形での会議は、絶対に問題を解決するには到らないことは明白だ。それゆえ、このような会議の合法性と代表性に国際社会が疑問を投げかけている。(中略)発起国としてのアメリカとカナダは、国際社会の分裂を招くだけで、国際社会が手を携えて朝鮮半島の核問題を解決していこうとする努力を台無しにしてしまった。この問題を解決するためには「六者会談」と「国連安保理決議」以外にはない。

なんとか「双暫停」(中朝双方が暫定的に軍事行動を停止して、対話のテーブルに着く)という中国のシナリオを実現に持ち込んで、「得意」になっていた習近平氏としては、米中二大大国と位置付けている「この中国」を、こともあろうにアメリカが、あのトランプ氏が外して北朝鮮問題を語る会議を開いたということは、腸(はらわた)煮えくり返るような思いだろう。

南北朝鮮の対話が進む中、米中首脳(トランプと習近平)による「友好的な」電話会談を終えたばかりだ。まさにその同じ16日に、「その舌の根も乾かぬうちに」一方では中国を敵国と位置付ける冷戦時代の構造を再現した会議を行なうとは何事か。きっと、こう思っているにちがいない。

中露を招聘しなかったことを激しく抗議

中央テレビ局CCTVや、その他の中国政府系メディアも、こぞって「バンクーバー外相会談が中露を招聘しなかった」ということを激しく非難している。

ロシアのラブロフ外相も、「バンクーバー会議は、百害あって一利なし」と言っていると、中国メディアは、こぞって報道している。

筆者の見解を申し上げるなら、このバンクーバー会議により、逆に北朝鮮問題の根源が明確になり、国連軍側を代表したアメリカは、いかなる休戦協定を朝鮮戦争に対して結んだかを考えざるを得なくなるので、決して悪いことだとは思えない。

また、チャイナ・マネーにより、一方的に覇権をほしいままに広げていこうとする中国に対しては、良い歯止めとなり得る役割を果たすだろうとも思われ、悪くない展開だということもできる。

果たして、これ以降、米中首脳が「仮初め」ではあったとしても、これまでのような蜜月関係を保っていられるか否か、その動向に注目していきたいと思っている。

それによって、日本の未来図も変わっていくだろう。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中