最新記事

中国

バンクーバー外相会議に中国強烈な不満

2018年1月18日(木)19時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

米中蜜月は終焉するか?(2017年11月、トランプ米大統領アジア歴訪。北京で中国の習近平国家主席と共同記者会見) Jonathan Ernst-REUTERS

カナダのバンクーバーで開催された朝鮮戦争連合軍側の外相会議に、中国は強烈な不満を表明。中米蜜月が吹き飛ぶどころか、冷戦時代の構造に戻したとした。中露を招聘しなかった主催者側を徹底批判している。

中露を招聘しなかった主催者

朝鮮戦争時の連合国側(朝鮮戦争国連軍)外相を集めて会議を開こうと呼び掛けたのはアメリカで、相談した相手はカナダであると、中国は報道している。テーマはもちろん、北朝鮮問題、すなわち朝鮮半島安全保障問題だ。

1月16日付の「環球時報」が「美加(米国・カナダ)20カ国が"北朝鮮核問題大会"をやってのけた」という趣旨のタイトルで、一面トップで扱っている(リンク先は、それを転載した中国政府系の「参考消息網」)。

同社説では「国連軍幽霊の再現、中露両国は招聘されていない」ということが強烈な口調で書かれているだけでなく、バンクーバー会議に集まった国家の外相を「奇怪なサークル」とまで呼んでおり、中国の不満が尋常ではないことが窺える。

朝鮮戦争は北朝鮮の金日成(キム・イルソン)首相が旧ソ連のスターリン書記長をそそのかして起こしたもので(1950年6月)、中国の毛沢東主席は反対だった。しかしスターリンの指示であるとうそぶく金日成の甘言に弄されて、毛沢東は、ようやく首を縦に振った。スターリンは金日成に「ソ連軍自身は参加せず、毛沢東を説得して中国人民解放軍に参戦させろ」と裏で糸を操った。

そのため国連軍が38度線を越えた1950年10月、毛沢東は中国人民志願軍を編成して北朝鮮に出兵させたのである。

中国人民解放軍ではなくて、「中国人民志願軍」としたのは、「中国共産党の軍隊」ではなく、「民間の志願者が軍隊を結成した」という形を取って、「国家としての参戦」の形を避けようとしたからだ。この当時、北朝鮮の国境にある吉林省延辺朝鮮族自治区にいて、戦火を逃れて天津に移った筆者は、中国人の小学校で、小学生までが志願することを英雄物語として教育された現象を経験している。

このように中国と旧ソ連(後のロシア)は、国家の軍隊として表に出ていたわけではないが、しかし北朝鮮の後ろ盾として「北朝鮮側」を応援していたことだけは確かだ。

そのためアメリカを中心とした朝鮮戦争国連軍側は、北朝鮮および中国とロシアを招聘しなかったものと、形の上では解釈することができる。しかし中国にも呼びかけて国連安保理として動いているはずのアメリカが、なぜ中国を外した形で北朝鮮問題を協議しなければならないのか。このことに対して、中国は激しく抗議表明をしたわけだ。

ただ、対話路線と圧力路線の間には明確な分岐線があり、対話路線は「中国、ロシア、韓国」を中心として主張されており、圧力路線は日米を中心に展開されている。対話路線が実行され始めているだけに、圧力路線を引っ込めるわけではないことを、アメリカは見せたいのだろう。トランプ大統領自身の発言の揺れと韓国の八方美人的立場は、ここでは先ず目をつぶって、論じないこととしよう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中