最新記事

朝鮮半島

南北対話「朝鮮民族の団結強化」に中国複雑

2018年1月12日(金)15時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

中国に一矢を報いることを忘れない金正恩委員長 Damir Sagolj-REUTERS

南北朝鮮対話を裏で操った中国だが、北朝鮮の主張「わが民族による解決」は米韓離間戦略であると同時に中国への抵抗だ。中国は対話を歓迎する一方、中国籍朝鮮族の独立を刺激するとして、複雑な心境にある。

南北対話における北朝鮮の主張「朝鮮民族」

1月9日、板門店(パンムンジョム)における南北閣僚級(高位級)会談を終えたあと、南北朝鮮による共同報道文が発表された。

その中に「わが民族が(南北朝鮮問題を)対話と交渉を通じて解決する」という文言がある。

北朝鮮と韓国の口頭による表現は多少異なるが、いずれにせよ「朝鮮民族が自主的に自分の民族間の問題を解決する」という意思表示を行なったことに違いはない。

これは日本では主として北朝鮮による米韓離間戦略が功を奏したものと受け止められているが、中国では必ずしもそうではない。

特に北朝鮮の朝鮮中央通信は1月8日付けで、「民族自主の旗印を高く掲げるべきだ」と題した論評を配信していると、中国メディアが伝えた。その論評には「民族自主」という言葉があり、かつて日本の占領下にあった朝鮮半島や中国で「民族独立」という言葉とともに盛んに使われてきた文言だ。

このことからも分かるように、共同声明の中に「わが民族」という文言を盛り込ませたのは、北朝鮮の要求であり、韓国側が妥協したという結果であることが分かる。

北朝鮮:「日本は百年の宿敵、中国は千年の宿敵」

1月6日のRFA(Radio Free Asia)中文版は、昨年12月に北朝鮮各地で朝鮮民主女性同盟の会議が開催され、そこで「日本は百年の宿敵、中国は千年の宿敵」という発言が大きく取り上げられたことを伝えた。

この報道では、(北朝鮮にとっては唯一の軍事同盟国である)中国が、北朝鮮に対する国連安保理制裁に加わっていることに対する抵抗であると解釈している。経済的に苦しくなった一般庶民の不満が政府に向かわないように金正恩政権が仕掛けたプロパガンダであるとの位置づけだ。

たしかにその側面は否めないだろう。その通りだとは思う。

しかしもっと大きな要因が内包されていることを見逃してはならない。

昨年11月17日の中共中央対外聯絡部の宋濤部長訪朝以降に、北朝鮮が中国の要求である「双暫停」を呑むことを合意するという交渉は、水面下で進んでいた。中国の要求を呑んで南北対話を受け入れることにはするが、しかし「わが国(北朝鮮)は決して中国に屈服したわけではない」ということの意思表明であると解釈すべきではないかと思うのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、復活祭の一時停戦を宣言 ウクライナ

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪肝に対する見方を変えてしまう新習慣とは
  • 3
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず出版すべき本である
  • 4
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 5
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 9
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 10
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 9
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中