その証拠に、12月から反中キャンペーンを北朝鮮国内で繰り広げておいて、1月1日には金正恩委員長が新年の辞で平昌(ピョンチャン)五輪参加と南北対話実現への可能性を示唆した。しかし、「これはあくまでも金正恩自身の独自の決断であって、決して中国の圧力に屈したわけではない」という雰囲気を予め形成しておことを目論んだと思われる。
「米中・新型大国関係」を謳った習近平に対する憎悪
北朝鮮にとって最大の敵はアメリカだ。事実、南北閣僚級会談で、北朝鮮代表は「ミサイルはアメリカを狙ったものだ」と明言している。
そのアメリカと「新型大国関係」を形成するというスローガンを打ち出して(2012年に)誕生した習近平政権に対して、北朝鮮の金正恩委員長は限りない憎悪を抱いたはずだ。
だから習近平政権誕生以降、未だに中朝首脳会談は開催されていない。
しかし北朝鮮の石油は主として中国からのパイプラインを通して送られてくる原油に頼っている。このパイプラインを遮断するぞと言われたら、北朝鮮としてはお手上げだ。
国連安保理の制裁が全会一致で決議されたと言っても、その内容はあくまでも中国が原油の全面遮断をしないという前提条件の中での「全会一致」だ。「全会一致」という言葉を使いたいために、アメリカは中国の原則に対して譲歩した形で制裁内容を提議している。
だから「原油をすべて止めるぞ」と中国に個別に恫喝されたら、北朝鮮も譲歩するしかない。
この「断油」を含めた中朝国境完全封鎖や中朝軍事同盟破棄を脅しの材料に使われて威嚇されれば、北朝鮮としては一定程度、中国の言うことを聞くしかないのである。
だから南北閣僚級会談は行った。
しかし中国に一矢を報いたい。そのため、ことさら「わが民族」を強調したものと解釈される。
中国の盲点、「わが民族」を突いた北朝鮮の戦略
以前から何度もこのコラムで書いてきたが、中国は南北のどちら側が主導権を握るにせよ、南北朝鮮が統一されることを望んではいない。
なぜなら中国には約200万人の中国籍朝鮮族がおり、その多くは中朝国境にある吉林省延辺朝鮮族自治州および同省内にある長白朝鮮族自治県に集中している。筆者が住んでいた当時(1948年~1950年)の延辺自治州では、人口の70%を朝鮮族が占めていたが、その後の中国は独立運動を恐れて「漢民族化」を図り、朝鮮族を分散させているので、今では40%前後しかいない状況になってはいる。
しかし「民族」という「血のつながり」へのノスタルジーには断ち切れないものがある。