似た者同士のトランプと習近平が世界秩序を破壊する
このような状況が両国の経済に及ぼす影響は大きい。トランプが対中貿易赤字の是正を望んでいても、大型の商談をまとめるだけではその目標を達成できない。2国間、できれば多国間でもっと広範な仕組み作りに合意しない限り、アメリカの対中貿易赤字の拡大は止まらず、両国の経済関係はいっそう悪化する恐れがある。
それにこのやり方では、中国が非自由主義的な秩序を築いて好きなように振る舞う状況に歯止めをかけられない。トランプが自由主義の原則を守ることを二の次にし、商取引型の交渉に走る限り、中国はますます国内外で非自由主義的な手法を実践しやすくなる。
アメリカと中国だけではない。近年、多国間の枠組みではなく、2国間交渉で問題を解決することを好む国が増えている。ほかの国々も2つの超大国に倣い、自由主義の原則を追求するよりも、商取引型の交渉に走り始めているのだ。
例えば、THAAD(高高度防衛ミサイル)の配備をめぐって中国との関係が緊張している韓国がそうだ。北朝鮮問題という地域の安全保障上の脅威について話し合うことよりも、中国による経済的圧力を緩和するための取引をしようとしてきた。
トランプは中国の保護主義への対抗手段として、商取引型の2国間交渉を選んだ。だがもし彼が多国間の枠組みを作って本気でこの問題に立ち向かおうとしたならば、国内外から広範な支持が得られたはずだ。
米国内では国防や経済界の利益を重んじる共和党員だけでなく、民主党や労働組合からも支持を得られただろう。国際社会でも、中国の容赦ない保護主義に悩む国々から幅広い支持が集まったはずだ。韓国や日本、オーストラリア、ドイツ、それにイギリスの当局者は、いずれも中国の保護主義への不満を隠さない。
多くの国がTPP(環太平洋経済連携協定)に参加したのも、中国の保護主義への反発という意味合いが強かった。TPPを当初、推進したのはオバマ政権下のアメリカだったが、トランプ政権によって息の根を止められた。
トランプに世界を牽引する意思がないことも、自由主義に基づく強い「ノー」を中国のナショナリズムに突き付けるという世界の期待に応える意思がないことも明らかだ。安易な商取引型の交渉は短期的な利益をもたらすかもしれない。だが、かつてアメリカが主導した多国的枠組みの経済的な大義はどこかに消えてしまう。
トランプが多国間の枠組みを作ることに二の足を踏む理由の1つは、世界のリーダーという特権的な立場を維持するにはコストがかかるとはっきり認識している点にある。自由な貿易や投資市場も大きな利益と共に負担をもたらす。米ドルが世界通貨になった理由の一端は、アメリカが大幅な貿易赤字をいとわなかった点にあった。
【参考記事】安倍首相が2018年に北朝鮮を電撃訪問すべき理由